8-4:インクリスの目的
よく行く店を回って、二日目が終わった。
(どこだ、どこにいるんだ…………)
考えるだけに費やした時間が今になって惜しくなる。
思い当たる場所は全部回った、思っていたよりこの街で思い当たる場所は少ない。
夜も遅く、次にどこへ行くか考える。
(俺が知っている場所というのは勘違いだったのか?)
しかし、街をしらみ潰しに探していては3日では足りなかっただろう。
夜が開けても、バルンは次に探すべき場所に当たりをつけられずにいた。
→ → →
朝になり、いつもならノエラの朝食を作っている時間。
バルンは一度、家に帰ってみることにした。
「ただいま」
言ってみるが、返事はない。
誰もいないのだから当然だ。
(少し、疲れたな……)
探している意味もわからず、探しているのだから気づいていないだけで理由があるはず、そんな細い理由だけで探しているのだから疲れるのは疲れるのは当然と言えば当然だ。
バルンは一度椅子に腰掛け、そのまま眠ってしまった。
→ → →
「やぁ、バルン」
「インクリスか、もう夢には現れないんじゃなかったのか?」
眠ってしまったバルンの夢に、またインクリスが現れた。
今回は最初から蝙蝠の顔だ。
「今なら安全だろうからね。ところで、どうしたんだい? もう探さないのかい?」
「少し、疲れた」
「そうかい、じゃあここで少しだけヒントをあげよう。僕とノエラは君達が知っている場所にいる」
「そんなことはわかっている、思い当たるところはすべて回った」
「本当にそうかい? 僕は君がよく知る場所にいる、待ってるからね」
→ → →
バルンは目を覚ました。
今の夢がインクリスの干渉によるものなのか、単にバルンの願望によるものなのかはわからないが、もう少し考えてみようかと思うには十分だった。
(考えろ、インクリスが隠れる場所だ。意味がないわけがない。俺とノエラが両方知っている場所、それも、よく知っている場所)
そこで、バルンは気づいた。
(奴は、あそこにいる)
椅子から立ち上がってバルンは思い付いた場所へ向かう。
遠い場所ではない。
むしろ、近いと言ってもいい。
バルンは扉を開けてその場所へ。
そこは、ノエラの部屋だ。
「あれ、バルン。お帰りなさい」
「……ノエラ、よかった、目は大丈夫か?」
ノエラのベッドには当たり前のようにノエラが座っていた。
「目? 相変わらず見えないままですけど、どうしたんです?」
「いや、なんでもない、インクリスが一緒にいたんじゃないか?」
「インクリスですか? さっきまでいたような気がしたんですけど、いつのまにかいなくなってますね」
「そうか、逃げられたか」
バルンはインクリスがいなかったことに、少しだけ安堵した。
「逃げたなんて心外だなぁ、僕はここにいるというのに」
バルンの背後、ノエラの部屋の外にインクリスが立っていた。
「インクリス、影ではないな?」
「うん、正真正銘僕がインクリス、本体さ」
その外見はなんのことのない、人間の少年のようだった。
頭にも、角がない。
「貴様、何が目的だ」
バルンはインクリスに問う。
「僕の目的? なんの目的が聞きたいんだい? 君から彼女を隠したことかい?」
「それもそうだが、全てだ、俺に干渉してくる目的を話せ」
「やだなぁ、最初に言ったでしょう。あなたに魔王として再び君臨してもらいたいんです、信じてませんでしたけど、帰りを待っている魔族も結構いるんですよ?」
「そうか、そいつらにはいずれ帰る、待っていろとでも伝えておけ」
「おや、見逃してくれるので?」
「惜しいが、今の俺ではお前を殺すことができないからな、力を取り戻したら、その時再び探し出して殺してやる」
「そうですか、ではお言葉に甘えて逃げさせてもらいますよ。素の力よ、話が呼び掛けに応じよ、汝に与える形は3つ、光、幻、透過、名前を呼ばれ現れよ【姿を眩ます影】」
呪文を唱えると、インクリスは光に解けて消えた。
「ふぅ、なんとかなったな」
バルンはなんとかインクリスを追い払うことに成功し、安堵の息を漏らす。
→ → →
「本当に何もされなかったんだな?」
「ええ、本当に何も。あぁ、でも一度、『ああ、案外準備しているんじゃないか、これだと案外慌てたりしないのかな?』とか言ってましたね」
「準備?」
バルンは何か準備をしただろうかと、考えを巡らせる。
そうして思い至ったのは、以前施したおまじないだ。
「なんだ、こんなに慌てることなかったな」
あの時のおまじないは、ロミロフに施したものは本当に気休め程度の物だったが、ノエラに対しては、バルン以外の魔族に対して干渉を封じるものだ。
一度発動すれば暫くは保ち続ける。
「なんですか、何をそんなに慌ててたんですか?」
「なに、ノエラを魔人にすると脅されてな」
「はぁ、それで助けるために走り回っていたと」
「そういうことだな、慌てて損した気分だ」
時間に余裕があるとわかっていれば、もう少し考えて動けていたし、休みも取りながらインクリスの悔しがるコウモリ顔でも想像しながら探せていただろう。
「まぁ、なんとかなったことだし、飯にするか」
「そうですね、でもご飯の時に聞かせて欲しいこともあります」
「ん、なんだ?」
「バルンは魔王だったのですか?」
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