7-4:救えぬ人
「魔族がいなくなっても救われない」
昔、ロミロフが勇者と呼ばれ始めた頃、そんな声を聞いた。
それは、その時滞在していた町の食堂でのことだ。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
ロミロフは、それを話していた二人に声をかけた。
「え、あ、勇者様!?」
「なんでこんなところに!?」
二人はとても慌てていたが、ロミロフはそれを気にすることなく話を続ける。
「俺は全ての人間を救うために魔族と戦っている、あなた達は魔族がいなくなっても救われないと言ったが、それは何故だ? できることなら、俺はあなた達も救いたい」
「あ、ああ、なに、俺達は魔族に関係なく貧乏なだけさ、俺達の生活が苦しいのは魔族に関係ねぇからよ」
「そうそう、魔族がいなくなったところで変わらねぇなぁって、そういう話さ」
「なるほど…………、魔族と関係ないから魔族がいなくなっても変わらないか」
「そういうことです」
二人の話を聞いて、ロミロフは少し考える。
かつて一緒に旅をしていた武具職人達に聞いたことがある 。
「魔族がいて、魔族と皆が戦っている間は武器がどんどん売れるのに、なぜ魔族を倒しながら回っているの」と。
その質問は純粋な好奇心からの質問だった。
それに対する、職人達の答えはこうだった。
「俺達は、今は武器を作っているが、武器よりも装飾品や農具を作る方が好きだ」
子供の頃のロミロフには意味がわからず
「じゃあなぜ武器を作っているの?」
と返した。
「俺達の作った装飾品がもっと売れる世界にするためさ、戦っている間は飾り立てるような奴は少ない、たがな、戦いが終わればきっと、今作っている武具よりも売れる、俺達は本当に売りたいものを売るために武器を作って魔族と戦いながら回っているのさ」
そうだ、彼等は魔族がいなくなったあとのことを考えてた。
武具など、魔族がいなくなれば売れなくなるだろうに。
話は食堂に戻る。
「そうだな、なら、今から魔族がいなくなった後の稼ぎ方を考えておくといい、魔族がいなくなれば皆、生活に余裕ができる、たぶん今以上に稼ぎやすくなると思う」
「でも、いつまでたっても魔族はいなくならないし、そんなことを考えている余裕もない」
「いいや、その点は心配要らない」
「なぜだい?」
「全ての魔族は俺が倒すからな、あんたらは俺が全ての魔族を倒すことを信じて、その後のことを考えてればいい、そうだな、同じような奴等にも声をかけて、集まって考えれば何かいい案も出るだろう」
「本当に、全ての魔族を倒せるんですか」
「ああ、約束しよう、俺を信じろ」
「ああ、なるほど、皆があなたを勇者様と慕う気持ちが、俺にもわかりましたよ」
「だろう? なんたって、俺は全ての人間を救うために旅をしているんだ、救えないなんてことはないんだ」
ロミロフはいく先々の町で、全ての人を救うために魔族と戦い、知恵を貸し、全ての人の希望となるよう努めた。
時には仲間を得て、別れたり、失ったり、助けられなかったことを悔やみながら、魔族と戦った。
そして魔王と戦うためにこの街に来て、ノエラという少女のことを知る。
彼女は目が見えず、両親も魔族の襲撃で命を落としたらしい。
今は街の人の協力でなんとか生活しているが、おそらく、魔王を倒しても、世界が平和になっても彼女は救われないと、ロミロフはそう思った。
そして、ロミロフはノエラを救うために彼女に勇者という名ではなく、ロミロフという名で近づき、最初は警戒されていたものの、なんとか友人という立場を得た。
そして、魔族と戦いながら彼女を救う方法を考えていた。
一人での生活が困難なのは、目が見えないからだ。
そう考えたロミロフは、彼女の目が見えるようになるための方法を色々探った。
そうして、かつて仲間が失った腕を見事に治した魔術師がいたことを思い出した。
彼は仲間の腕を治す際に、治すには非常に力の強い魔族の角が必要だと言っていたのを思い出し、ロミロフは魔王の角ならば十分だろう、そう考えた。
元々倒すつもりだったのだ、倒す理由が今さら1つ増えただけだ。
都合がよい、そう考え魔王との戦いに挑んだ。
そして、角が必要だったこと、それがロミロフの命を助けた。
魔王が魔術によるトドメの雷を放つ直前、せめて角をと思い、剣を振るった結果、その一撃は角を切り飛ばし、魔王の雷はその威力を大きく落とした。
それが、勝負を決めたのだ。
雷に焼かれたロミロフは一度は倒れたが、動けなくなるほどではなく、ロミロフは死んだ、そう思った魔王の背に剣を投げることができた。
その後は他の魔族に襲われては敵わないと逃げるように、魔王の背から剣を抜き、角だけ拾って街へ帰った。
数日回復に努め、角を持ってノエラの家に向かった。
そして、バルンと出会い、魔王の角ではノエラを救えないことを知った。
→ → →
(そういえば、最近はインクリスを倒すことばかり考えていて、ノエラを救うことを考えるのを忘れていたな…………)
宿に帰って来て、ロミロフは考える。
(どうしたら、ノエラを救えるのだろうか)
既に寝間着に着替えて寝るだけなのだが、ベッドに腰掛け考える。
(目を治すような医学や魔術の知識は俺にはない、それができる人を探すか、いや、目を治さずとも苦労なく生活できればいいのか?)
そうして、思い至る。
(バルンが来てから、苦労することなく生活できている?)
思い返せば、バルンが現れる前はノエラは暗くなってからしか買い物にも出られず、店の者に迷惑をかけているのではないかと(本当は店主は迷惑だ等と感じてはいないものの)少し心配していた。
しかし、今はバルンがいてその心配もなくなった。
知らないところにも、バルンと一緒ならば出掛けられる。
ロミロフは気づいた。
(なんだ、バルンがいればノエラは俺が救う必要はないのか)
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