7-3:ロミロフの過去
うっかりで、今まで断り続けてきたバルンの料理を食べることになってしまったロミロフ。
「さぁ、できたぞ」
実は、バルンが疑わしい奴だったから食べなかったわけではない。
「美味しそうな匂いですね」
「ああ、うまいぞ」
確かに、匂いは美味しそうな匂いがする。
しかし、料理の見た目が壊滅的に悪い。
味はノエラが美味しいと言っている以上、疑うことはないのだが、ロミロフが食べる気にならなかったのはこの見た目だ。
携行食のブロックに干し肉、それにいくつかの野菜が炒められ、よくわからない赤い液体がかけられている。
ノエラは見えないから気づかないのかもしれないが、見えるロミロフでは、少し手を伸ばしづらい見た目だ。
食べたら美味いであろうことはわかっているのに、見た目だけでこうも食欲がなくなるとは。
「おいしいです」
「ああ、我ながらいい出来だ。ん、どうしたロミロフ、食べないのか?」
「あ、ああ、食べるよ」
声をかけられ、ロミロフは皿に乗っている料理をなんとか口に運ぶ。
「あ、美味いな」
わかってはいたのだが、見た目に反して普通に美味しい料理に驚き思わず美味いと声に出してしまった。
「そうだろう、もっと食っていいぞ。ん、どうした?」
「ああ、いただこう」
ロミロフは見た目を気にしないために、目を瞑って食べることにした。
→ → →
「ところで、ロミロフの話を聞いてもいいか?」
「俺の?」
食事が終わって少ししてから、バルンがロミロフに提案した。
「ああ、今日言っていただろう? すべてを救おうとするのは、そういう風に育てられたからだと」
「今する話かなぁ」
「私も聞きたいです」
「ああ、俺の料理はタダじゃない、そういうことにしてもいい」
「まぁ、いいか」
しぶしぶ、ロミロフは話し始めた。
「俺はが生まれ育った村は、すごい小さい頃に魔族の群れに襲われて無くなったんだ。
そして俺はその唯一の生き残った、運よく怪我もなく、滅びた村の跡地で旅の人達に拾われたんだ。
その人達はさ、武具の職人で護衛の剣士だったり、魔術師だったりと街を巡りながら魔族と戦う武具を売って回ってた。
魔族との戦い方、旅に必要な知識に教えてもらって、この剣と鎧もその人達に貰ってね」
腰の剣と、脱いで床に下ろした白銀の鎧を指して言う。
「その人達はどうなったんです?」
「魔族との戦いでみんな死んだよ、また俺だけが生き残った」
「そんな…………」
「そして、その仇が俺の初めて倒した魔族。
それからは、一人で色々な街を巡って魔族を倒したりしながら旅をして、」
そこで一度ロミロフは言葉を切る。
「旅をして?」
「色々な価値観の人に会って、助けたり助けられたりして、その人たちを失う訳にはいかない、俺が全てを救うんだって気持ちが沸いてきたって訳た」
「……そうですか」
「それからは、そんな旅を続けて今はこの街でノエラを救おうと奮闘しているってところで話は終わりだ」
「なるほどな」
ロミロフが見てきた人々というのはあまりバルンには想像ができないが、魔王城での戦いの時にロミロフが言っていたことを思い出す。
→ → →
「勇者ロミロフ、何故弱き人間など守ろうとする、貴様ならば、全ての人間を強さだけで従えることもできるだろう?」
「人間は弱くなどない、魔族のように個の力が強くなかろうと、協力し、大きな力を持つこともある!」
「つまり、協力されて己の地位をひっくり返されるのを恐れるのか? そのようなこと、強さを持つ者の恐れることではない」
「そうじゃない!」
→ → →
あの時は魔王バルクロムには勇者ロミロフの言うことはいまいち伝わらなかったが、暫く人間として生活し、ロミロフの過去を知った今ならば少しわかったような気がした。
(個の力では弱くとも、協力して強き力を持つこともある、か)
かつては全てを失ったロミロフ、それが旅の者達に技術を武具を知恵を、旅の中でもたくさんの者にたくさんの物を与えられてできたのが、今のロミロフなのだろう。
そして、それらの力は魔王バルクロムを討つに至った。
それこそ、ロミロフの言っていた弱い力も協力することで強き力になるということなのだろう。
「さて、そろそろ俺は宿に行くよ、もうかなり遅いし、宿屋の親父が扉を閉めるまえに帰らなければならない」
「ああ、気を付けて帰れよ」
「うん、おやすみ」
ロミロフは帰っていった。
→ → →
(久しぶりに思い出しちゃったな)
ロミロフを拾った人達は皆いい人達だった。
『俺たちの作った武器が魔族から人間を救う』
それが彼らの合言葉で希望だった、一人になってからは『彼等の作った剣で魔族から人間を救う』を希望にロミロフは戦ってきた。
しかし、旅の途中で出会った人達は希望を持っていない人の方が多く、ロミロフは彼等の希望になることを決めた。
『生きることを止めるな、顔を上げろ、俺が全てを救ってやる』
色々な街で魔族を倒し、街に戻ってそう言い続けた。
気付けばロミロフは人々から勇者と呼ばれるようになり、人々の希望になった。
しかし、それでも希望を抱けない人がいることロミロフは知る。
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