7-2:街に帰って

 魔人を埋めた後、荷物とノエラを下ろして休憩していたらノエラが起きた。


「着いた?」


「いや、少し休んでいた。予想外の事態もあったしな」


 ノエラは下ろされたことで、もう着いたものだと思っていたようだ。


「予想外の事態?」


「ちょっと強い奴が来てね、手間取った」


「それで、ロミロフに手間取った理由を聞いたら、疲れてたからと言うものだから、休憩を取っているのだ。まったく、疲れていたのならば疲れたと言えばいいものを」


「仕方ないだろ、休まずに歩き続けると提案したのは俺なんだから」


「そんなところで変な意地を張ることはないだろう、主に戦うロミロフが疲れていたら危険だろう」


「それはそうだけど」


 現に、魔人は非常に強かったがロミロフが万全の状態ならば大して苦戦はしなかっただろう。


「とにかく、疲れたのなら言え。困るのはお前だけじゃなく、俺も、ノエラもだ」


「わかったよ、疲れたら言う、れでいいだろう」


「ああ、無理はするんじゃないぞ」


「まぁ、それはいいとして、また魔人が現れたらどうする?」


「魔人? 私が寝てる間に魔人と戦ったんですか?」


「ああ、そうだが」


 ノエラは魔人について知っているのだろうか、とバルンは思ったがよくよく思い出してみれば最初にロミロフに対して魔人の話をしたその場にノエラもいた。


「ロミロフって人間を斬ることに抵抗感があると思ってたんですけど、大丈夫だったんですね」


「魔人が元人間だってことを思い出したのは斬った後だったんだよ、今も結構後悔している」


「そうだったんですか、すいません、わざわざそんなこと聞いて」


「いや、聞いておいて正解だ。もしやロミロフ、次に遭遇したらなんとか逃げようとか考えているのではないだろうな」


「そうだよ、悪いか」


「いや、悪くはない。攻撃してこない奴ならば殺す必要はないかもしれない、だが、そうではない魔人に出会ったらどうする?」


「そうなったら、殺すよ」


「そうか、あれは使い魔に寄生されているだけの人間とは違う、ああなったら、二度度と元には戻らないものだ」


「……そうか」


 やはり、ロミロフは救えるのならば、ということを考えていたのだろう。


「救えるものは全て救いたい、それはお前の美徳だと俺は思う、しかし、同時に傲慢なところでもある。

 無理なものは無理だと諦める潔さも必要だ」


「そんなことはわかっているよ、俺にだって救えなかったものはたくさんある」


「それは、諦めてか?」


「……いや、まだああしていれば救えたんじゃないかって思うことはあるよ、でもそれを選べばまた、別の誰かを救えなくなる。たまに、救えなかった人が何故選んでくれなかったのかと攻めてくる夢を見ることもある」


 ロミロフの辛さつらさは表情からも、声からも十二分に読み取れる。


「前から気になっていたんですけど、何故ロミロフはそうまでして全てを救おうとするんですか?」


「俺が、救おうとする理由かい? そうだな、俺がそういう風に育てられたから、かな」


(そういえば、ロミロフのことはあまり知らないな)


 いつからか魔族が街や村を襲って、報復という名の挑戦を待っているとロミロフがやってくるようになった。


 そうして気付けば数多くの魔族がロミロフに殺されていた、その勇ましき様子から人間の間でも、魔族の間でもロミロフを勇者と呼び表すようになったことぐらいしかバルンは知らない。


 魔族と戦うようになった以前のロミロフというものは何も知らない。


「まぁ、その話はいずれね。さて、十分休憩もしたし、行こうか」


 ロミロフは半ば強引に話を切り上げて、荷物を背負い直して歩き出す。


 しかたないのでバルンも荷物とノエラを背負い直してついていく。


 → → →


「やっと帰ってこれたね」


「久しぶりの我が家です」


 帰ってきた時は夜、日は落ちて街を出歩いている人はいない。


「うむ、留守の間に何かを盗られたりといった形跡はないな」


 バルンが一通り見回して、何もおかしいところがないことを確認する。


「さて、ロミロフ。夕食はまだだったな、こんな時間では宿の食堂も閉まっているだろう? 食べていくか?」


「ああいいよ」


 ロミロフはそれをあっさりと承諾する。


「ほぉ、意外だな。てっきりまた何か理由を付けて断られるかとも思ったが」


「別に、魔王城へ行って帰ってくる間は一緒に食べていたじゃないか、予定よりも早く帰ってきたからまだ携帯食が余っているし、みんなで全部食べてしまおう、どうせ材料もないだろう?」


「いや、その携帯食と少しある保存食で適当に一品作るつもりだ、一度食べると言ったのだから、よもや断るなどと言わんよな?」


「はぁ、仕方ないか。いいよ、食べることにしよう」


「そうかそうか、では普段にも増して美味い物を作ろうか」


 やっとロミロフに自分の作ったものを食べさせることができることになり、バルンは少しだけ気分が良かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る