勇者、過去を語る

7-1:魔人との戦い

(魔人だと…………、誰がこんなもの作ったんだ)


 ロミロフと戦う魔人を見てバルンは思う。


 魔人は自然発生するもではない。


 人間の肉体の欠損、それを魔術によって復元させると、魔術によって作られた部位の魔族の力が人間を乗っ取ってしまう。


 個体によっては魔族よりも強く、人間とも魔族とも敵対する、全ての敵。


 それが、魔人だ。


 自然発生しない以上、誰かが人間の体の欠損を魔術で埋めたのだろうが、欠損を復元する魔術は非常に難しい。


 おおよそ人間の扱える魔術ではないし、扱えたとしても一度でも魔人の誕生を経験すれば、使えない魔術であることはわかるはずだ。


 欠損を復元する魔術が扱えるような魔術に精通した者ならば、わからないはずがない。


 魔族にならば魔人のことを知らず、その魔術を扱う者も多いが、自身の治療に使うのが主で、他者、それも人間を治療することなど無い。


 最初の魔人のようなことは滅多に無い。


 つまり、魔人が生まれるとしたら、知らずに人間が魔術での欠損の復元を行い、それが魔人化するぐらいしかない。


 そしてもう1つ、考えたくもないが魔人を意図的に産み出している存在がいるか、だ。


 今、ロミロフと相対している魔人は左の足だけが黒い。


 魔人の体は人間の体を基本としており、復元された部分だけが黒く変色する。


 全体的な肉体の能力もかなり上がるが、黒くなっている部分は他とは比べ物になら無いほどの力を持っているらしい。


 それは、ロミロフに向かって繰り出された蹴りを見てもわかる。


 直撃すれば確実に死ぬだろう。


「ロミロフ! 左足に気を付けろ!」


「それぐらい、見ればわかる!」


 バルンはそれはそうかと思ったが、言葉を続ける。


「俺が魔術で撹乱をする、相手の攻撃の精度は下がるだろうが、当たることは覚悟しながら戦え」


「了解」


「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは光、それは影、それは幻、最後に名を、【惑わす戦士】、現れよ」


 バルンの唱えた呪文に応じて、ロミロフの影が持ち上がり、黒いロミロフになった。


 黒いロミロフは先程のロミロフと同じように一息に踏み込み、影の剣を振るう。


 影を動かして見せているだけの幻なので当たっても意味はない。


 魔人の反応速度は凄まじく、軽く避けられたのだが。


 魔人はそれに反応して蹴りを返す、影であるため普通は無理な動きで避ける。


 触れられれば実体がないことがバレてしまう。


 それに乗じてロミロフも攻める、しかし、それにも魔人は対応して攻撃してくる。


「応えよ、素の力よ、汝に形を与える」


 バルンは新たな呪文を唱え始める。


「それは土、それは草、それは呪縛、最後に名を【絡めとる大地】、現れよ」


 魔人が左足を上げている時に、魔人の足元の地面がうねり、右の足首まで地面の中に飲み込む。


 魔人はバランスを崩すことこそなかったが、動きは一瞬封じることができた。


「今だロミロフ! やれ!」


 バルンの呼び掛けに応じて、ロミロフは魔人が足を抜く前に、首を落とした。


 → → →


 戦いは終わり、黒いロミロフも消え、バルンとロミロフは魔人の死体の横に座って話していた。


「強かったな」


「ああ、死ぬかと思ったよ」


 ロミロフ一人ならば確実に死んでいただろう。


「それで、魔人ってあまりいるものじゃないんだろう?」


「ああ、偶然作られたものに偶然出会っただけならいいんだが、少し、様子もおかしかったように思える」


「そうなのか?」


「ああ、俺が読んだ魔人の記録によると、相手が魔族でも人間でも、躊躇なく襲い掛かってくるとされていた、しかし、こいつは受けの姿勢で、攻撃に対して反応していただけだ」


「へぇ、それは奇妙だね」


「ある程度は人間だったときの戦い方に影響を受けるのだが、ここまで反撃主体の戦い方をする魔人というのも珍しい」


 それを聞いたロミロフはあることに気づく。


「そうか、元は彼も人間だったんだね」


「ああ、魔人の元になるのは人間だけだからな」


「そうか、ならちゃんと埋めてやろう」


「…………そうだな」


 二人で軽く穴を掘り、かつて人間で魔人だった者を埋めてやった。


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