6-5:魔王城からの帰路
「さて、そろそろ街に帰ろうか」
「そうだな、今のところ調べられることもないしな」
「もしかして、また野営ですか?」
ノエラは行きの時のことを思い出してしまったようだ。
魔王城では魔王のベッドで寝ていたのだし、嫌になるのもわかる。
「ああ、そのことなら安心してくれ」
ロミロフが言う。
「どうするんですか?」
「休まずに歩き続ければ4日ぐらいで戻れるよな?」
「ああ、休まずに歩き続ければな。流石にゴメンだ」
まさかそんな提案をされるとはバルンも思っていなかった。
「でもさ、バルンの背中なら寝れるし、できるだけ早くに街に戻りたい、ならこの方法が一番いいんじゃないか?」
「まぁ、そうだが、ノエラはどうだ?」
「私は早く街に戻れるならどっちでもいいですよ」
「だ、そうだ」
(これから、自分が嫌で断り切れなさそうなことをノエラに振って、代わりに断ってもらおうとするのはやめよう)
「仕方ない、それでいい、さっさと帰ろう」
→ → →
荷物をまとめて、ロミロフは行きよりも少し小さくなった荷物を、バルンはノエラを背負う。
バルンは、(また戻ってくるからな)と魔王城の大扉を睨みつけた。
「バルン、さっさと行こう」
「ああ、そうだな」
バルンはロミロフに呼ばれ、少し小走りで先に行ったロミロフを追いかける。
← ← ←
(今回もだめか。まぁ、気長に待とう、時間はいくらでもあるんだ)
闇の中で待ち続ける彼は久々に思考というものをした、闇に解けて実体があるのかもわからなくなっていた体は、少しだけ重みを帯びた気がした。
→ → →
魔王城を出て3日程が経った。
バルンもロミロフも休まずに歩き続けている。
途中で食事休憩は挟んだが、それ以外はずっと歩き続けている。
正直に言うとロミロフは少し疲れてきたのだが、ノエラを背負っているバルンが思いの外余裕そうなので、最初に休まずに歩き続ければと提案した自分が休もうなんて言い出せるはずがなかった。
「バルン、疲れてはいないか?」
「いや、大丈夫だ」
「そうか」
ロミロフには少し休もうか、の一言が言えなかった。
(どうするか、休みを提案してしまおうか)
「ノエラは疲れていないかい?」
「…………」
「ノエラならば寝ている、どうした、もしかして疲れたのか?」
「いや、そんなことはないさ、進もう」
やはり、言えなかった。
(いや、言ってしまおう、少し休もうか、と)
「あー、バルン、少し」
そこまで言ったところで、進む先に何かがいることに気づく。
「少し、敵襲のようだな」
それは片脚だけ黒い、人によく似た細身の魔族だ、角は後ろに伸びているのか、小さくて髪に埋もれているのかはわからないが、魔族の領域に何の装備も持たずにいるなど、人間ではあり得ない。
「ああ、任せた」
荷物を肩から降ろし、地面に落ちる前に一気に踏み込んで斬りかかる。
そして、一気に首を薙ぐ。
「ロミロフ! そいつは」
首が落ちたはずだった、バルンが叫ぶ声が聞こえる。
ロミロフは咄嗟に横に跳んだ、転がるように着地し、すぐに身を起こす。
死んだと思った、何が起きたのかはわからなかったが、跳ばなければ死ぬという勘だけで命が繋がった。
目の前の魔族は未だ健在だ、ゆらりゆらりと体を揺らしている。
(いや、こいつは魔族じゃないのか)
跳んだ時にバルンは言っていた。
(こいつは、魔人だ)
ゆらりゆらりと体を揺らしている魔人は、攻撃をしてくる様子はない。
(こちらから仕掛けなければ攻撃はしてこないか?)
視線を外さないようにして、剣を向けながら足元の小石を拾い上げる。
その間も、魔人は揺れているだけだ。
ロミロフは拾った石を魔人に向かって投げる、人間が受ければ骨ぐらいは折れる威力だ。
それを魔人は当たる直前で大きく揺らし方を変え、黒い脚でロミロフに向かって蹴り返してきた。
「なっ」
ロミロフは驚いたが、それをなんとか避けた、正確に頭を狙って蹴り返された。
恐らく、先ほども斬りかかったのを避け、そのままあの脚で頭を狙って蹴られたのだろう。
バルンはノエラを守る為に離れている、援護はしてもらえるだろうが、倒せるだろうか。
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