6-4:バルンへの疑問

「ねぇ、ロミロフ」


「どうした?」


 インクリスのことを記した記録を探して本棚の間を進んでいると、ノエラが話しかけてきた。


「相談って?」


「ああ、バルンのことだ」


 ロミロフは相談があると言ってノエラについてきてもらったことを思い出す。


「バルン、魔王城に来てから少し変じゃないか?」


「そうですか?」


 言ってから気づく、


「あー、そうか、ここに来てから殆どノエラはバルンと一緒にいないもんな」


「そうなんですよ、最初の日はずっと寝てましたし、昨日はずっと蔵書室にバルンはいたらしいですし、今もさっきも探すときはロミロフといっしょで、バルンは一人で行動してましたから」


「そうだよな、俺が変だと思ったのもただの勘だし、普段から一緒にいるノエラならわかるかもしれないと思ったんだが、一緒にいないんじゃあ、わからないよな」


「そうなんですよね、相談にのれなくてごめんなさいね」


「いや、いいんだ、少し気になっただけだから。さて、インクリスのことを書いた記録を探そう」


「私は力になれませんけど、頑張ってくださいね」


 ノエラは服の端握って、付いてくるだけだ。


「ああ」


 → → →


「どうだった?」


 一通り見たので合流して、報告会をする。


「けっこう奥まで行って、大体で見ただけだけど1つも無かった」


「そうか」


「代わりに、」


「あからさまに抜けている部分がある、だろう?」


「うん、何者かに持ち出されている、恐らくインクリスによって」


「だろうな、しかし、隠し扉は最近開けたような形跡はなかったから、恐らくこの部屋の魔族の死後、少ししてから忍び込んで自らに関する記録を全て持ち出したのだろう」


「なんでそんなことをするんだ?」


「さぁな、インクリスの秘密主義の度が過ぎているか、他人に見られては不味いことを見られたか、だ」


「裏切りの魔族って自分で言っていたぐらいだし、何かしようとしたところを見られたんじゃないか?」


「おそらくな、場合によってはこの部屋の魔族を殺したのはインクリスである可能性もある」


(70年も前だと、俺が魔王になる前の話だ、もしかしたら前魔王は何か知っていたのかもしれないが、既に死んでいるしな)


 もちろん殺したのはバルクロムであるが。


 魔王として厄介なもののことは、しっかりと次の魔王に内容を引き継ぐべきだな、自分が力を取り戻して魔王として復帰したらしっかりと引き継ぎ資料を用意してやろう。


 そう、バルンは心に決めた。


 それを受けとるのは自分を殺す者だとわかっているが、それでも用意しようと決意した。


 まぁ、インクリスのことなど次の魔王に引き継ぐ前に片をつけてしまいたいことなのだが。


「さて、これ以上探してもここにはインクリスの手がかりみたいなものはないだろうし、上に戻ろうか、こう暗いところにずっといるのは気分も良くない」


「そうですか?」


「ノエラはまぁ、暗いところは大丈夫かもしれないけど、俺は苦手だね」


「俺も大概平気だが」


「普通、暗いところは危険なんだ、二人が少しズレているだけだよ」


「そうか?」


「そうですか?」


 バルンとノエラはお互いに普通だよね、と確認しあった。


「そういえば、ここに来てから全然バルンと一緒にいられてないと思うんですが」


「ん、あぁそうだな」


「ああ、わかった」


「なにがだ?」


 突然、ロミロフが何かに気づいたように声を上げる。


「魔王城に来てからのバルンに感じていた違和感の理由、俺はバルンが一人でいるところをあまり見ていないんだ、いつもノエラが一緒にいたからさ」


「ああ、さっきのはそういうことだったんですか」


「む……」


 バルンも少し、一人で行動しすぎていると思っていたところだった。


(魔王城で、一緒に行動していると慣れすぎていることに疑問を抱かれるかと思っていたのだが、一人でいること自体に疑問を抱かれるとは思ってもいなかった)


「特に一人で行動する意味はなかったのだが、まぁ、そうだな、これからは、ノエラと一緒に行動しようか」


「そうしましょうか」


 ノエラは少しだけ、上機嫌に答えた。


「それは良かったけど、さっさとここを出ようか」


「そうだな」


 ロミロフに急かされて、バルン、ノエラ、ロミロフの順に地下室から出た。

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