6-3:魔王城の地下

(たぶんこの辺りに…………)


 手探りで1つだけ動く壁の石を探しだし、押し込む。


 カコンと小さく仕掛けが動く音がして、少し待つと、バルンの目の前には扉が現れていた。


 バルンは魔王城の地下室の一角、大きな空の木箱が乱雑に積まれている部屋、倉庫に偽装した、隠し部屋の入り口に来ていた。


「ロミロフ!ちょっと来てくれ!」


 扉を開けずにロミロフを呼ぶ。


「あったか」


 近くを探していたロミロフと、一緒にいたノエラがやって来た。


 バルンは蔵書室で調べものをしながら、何かいい物が残っていないかと、魔王城の色々な設備を調べていた。


 そこで見つけたのがこの、地下にある隠し部屋だ。


 バルンは大体の場所は把握していたが、ロミロフにも探すのを手伝ってもらっていた。


「それで、この扉の向こうには何があるんだ?」


「どうやら、他の魔族を監視するのが趣味だという魔族の使っていた部屋があるらしい」


 話ながら扉を開けて中の通路に進む。

 暗いので、用意してきた蝋燭に灯をともして明かりにする。


「他の魔族を監視するのが趣味の魔族?」


「嫌な趣味ですね」


「そういう奴がいたらしい、記録によると70年程前に殺されたらしいが」


「なんでまたそんな魔族の部屋を?」


「記録によれば、その魔族は魔王城のあらゆる場所に目だけの使い魔を埋め込み、常に魔王城にいる魔族のすべてを見ていたらしい」


「見て、どうしていたんだ?」


「さぁな、見ていただけかもしれないし、弱味を握ったりしていたのかもしれない。

 そして、ここからが本題だが、その魔族がこの部屋を作ったのは、魔王城ができた時らしい」


「つまり?」


「インクリスらしき魔族のことも見ていた可能性がある」


「なるほど、でも見ていただけじゃないのか?」


「監視していたのならば、その記録が残っているかもしれん、一応インクリスの手がかりになるかもしれないものだ、確認しておきたい」


 暗い通路を蝋燭で照らしながら進んでいくと、扉があった。


「ここだな」


 その扉を開けて中を見ると、バルンはとたんに止めておけばよかったと感じた。


「どうしたんだ?」


 扉を半分ほど開けて動きを止めたバルンを見て、ロミロフが尋ねる。


「いや、中を見てくれ、それでわかる」


「どれどれ、うわぁ」


 そこにあったのは、蔵書室よりも多い本棚、そこに並んでいる本は名前と年代ごとにきれいに整頓されていた。


 ロミロフは本の多さに驚いたようだったがバルンは違う。


 本に書かれている名前は殆ど知っているものだったからだ。


 棚に並んでいる本に書かれている名前は、かつて魔王城に住んでいた魔族の名前、つまり、この本棚に並べられているのは監視するのが趣味だった魔族が監視した魔族の記録ということだ。


「これ、全部監視の記録?」


「そのようだな、蔵書室にあった図面よりも相当広い、恐らく空間が足りなくなったから、自分で拡張したのだろう」


「なんでそこまでしたんだろうか」


「さぁな」


 魔族には色々な奴がいるんだ。


「それにしても、ここまでしっかりと名前、年代が分けられているとは思わなかったな、これは早く片付きそうだ」


「不幸中の幸いってやつだな」


 ここまで多いとは思ってなかったが、ここまで纏めてあるとも思っていなかった。


「私はどうしたらいい?」


「ノエラは…………」


 本を探すのには向いていないし、この部屋には休んでいるのに向いた場所もない。


 かといって、一人だけ帰すわけにもいかない。


「俺と一緒に探すか」


 ロミロフが言った。


「ロミロフと?」


「相談したいこともあるしな」


「そうか」


 そう言って、バルンは二人と別れてインクリスを監視した記録を探しに行く。


 二人も、別の棚へ探しに行く。


(魔王城では俺が一人で行動していることが多いような気がする)


 ふと、バルンはそう思った。


 なんだかんだでノエラは寝ていたり、ロミロフと行動していたりでバルンは単独行動が多い。


 少しだけ気になったが、今はインクリスの情報を探そうと、本棚に集中することにした。


→ → →


 魔王城ができた当時の記録が並んでいる棚はすぐに見つかった。


 本棚を奥へ奥へと拡張していったため、古いものほど手前にあったのだ。


(インクリス、インクリス、ないな)


 その時代の本棚にはインクリスの名がある本はなかった、しかし、ただ存在しなかったわけではない。


 一冊分、本棚に隙間があった。


 そこは名前順に並んでいる記録達の中で、まさに、インクリスという名に該当する場所だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る