6-2:ロミロフの差し入れ
魔王城に来て2日目、バルンは蔵書室で調べものを、ロミロフはノエラと魔王城を探検することにした。
元より、ノエラは一人で残していくわけにはいかないからと連れてきただけで、魔王城でやる予定だったことはないし、ロミロフもバルンのように資料を読み解ける訳でもない。
そうして、バルンだけが蔵書室での調べものをして、二人は一緒に魔王城を探検することにしたのだ。
「それで、どこに行きます?」
「そうだね、あっちにでも行ってみようか」
「あっちってどっちですか?」
昨日と変わってノエラは元気になった、やはり、よい寝具でぐっすりと寝たのがよかったのだろう。
「この部屋は何の部屋です?」
「この部屋は厨房かな、道具はなにも残っていないようだけど」
「厨房、料理をする専用の部屋ですね、始めて来ました」
「まぁ、普通はあまり縁がないかもね、あっても台所ぐらいかな」
「ロミロフは料理できるんですか?」
「俺は、まぁまぁってところかな、自分が食べるには問題ないけど、人に振る舞ったりはできないぐらい」
普段は宿に併設されている食堂での食事だったり、野営中も乾物を水でふやかして食べるぐらいだ。
「バルンは料理が上手なんですよ、そういえばロミロフって、バルンの料理を食べたことありましたっけ?」
「いや、ないよ」
ちょくちょく誘われたりはするが、ロミロフはバルンが誘ってくれてもだいたい断っている。
「なんでですか?」
「何でって言われても、誘われる時はだいたいもう食べてたり、時間が合わなかったりしただけだよ」
「違いますよね、ロミロフは意図的にバルンの作ったものを口にするのを避けている、いつも断る理由を話すときも、今も、嘘の理由でごまかしている、そういう声です」
「そうかい?」
「私にはわかるのです、目が見えない分、耳で他人の表情や感情を聞き分けてきたんですから」
「なるほどね、まいったよ。嘘をつくときに表情を読まれないことには自信があったんだけど、声に出ているとは思わなかった。
そうさ、俺はバルンをまだ信用していない」
嘘をついてもノエラにはバレるらしいことがわかった今隠す必要もない。
「でも、安心して欲しい、信用していないと言っても、今、仲間としては認めている、そうでなければ寝るときの見張りを任せたりしてないさ、嘘じゃないよ」
以前にもバルンと似たような話をしたのを思い出す。
あのときは元より怪しかったバルンの発言をきっかけとし、何者なのかとロミロフは尋ねた。
バルンはその問い自体には答えなかったが、バルンはバルンの目的のためにノエラを守り、ロミロフと敵対する意思は無いと言った。
その言葉が事実かどうかは確認していないし、確認する術もなかったが、確認しない方が良いとその時は直感的に思った。
そして、借りが1つあることを思いだし、それを建前にバルンを詮索することをやめたわけだ。
「ただ単に俺が少し用心深いだけ、仲間だとは思っていてもバルンの作った料理を食べるにはまだ疑わしいことが多い、それぐらいの理由だよ」
「それを聞いて安心しました」
「そうか、誤解が解けたようでなにより」
そうして、また和やかに魔王城探検に戻る。
「ん、この壁…………」
ロミロフが厨房の壁の一部に違和感を覚えた。
そこを少し調べてみると、隠し扉になっており、保存が効く食材が少し残っていた。
「なんです?」
「干し肉とか、保存食だね」
「干し肉…………。そうですね、ロミロフ、今蔵書室で調べものをしているバルンにこの干し肉とかを使って、暖かい飲み物を作って持っていったらどうでしょう」
「俺がバルンに?」
「そうです、別にロミロフがバルンの作ったものを食べないだけで、ロミロフが作ったものをバルンに飲んでもらうのは問題ないわけでしょう?」
「まぁ、そうだね」
「ロミロフは少し、バルンに対する警戒を下げるべきです。バルンがロミロフのことをあまり警戒していないことがわかったら少しはロミロフの警戒心も弱くなることでしょう」
「なるほどね、まぁ、いいか」
そうして、ロミロフは作った飲み物を持って蔵書室へ向かった。
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