魔人、遭遇する
6-1:始まりの魔人の記録
「バルン、任せっきりにしてすまない」
ロミロフが暖かい飲み物を持ってきた。
「ああ、ありがとう」
それを受け取りバルンは口を付ける。
「これ、どうしたんだ?」
ロミロフが持ってきた飲み物は用意してきた荷物にはなかったものだ。
「食糧庫があった腐ってなさそうな物で適当に作ったんだ」
「これ、本当に大丈夫か?」
バルンは食糧庫にどんなものがあったかは把握していなかったし、いつまで食糧庫を管理していた魔族が残っていたかも知らないが、大丈夫な物だろうか。
変な味はしなかったし、大丈夫だろうと思うことにした。
「何か気になる本はあるかい?」
「ああ、いろいろとね」
少し前まではロミロフもバルンと一緒に蔵書室で本を見ていたが、ロミロフには理解できないような本ばかりだったので、今はバルンだけが蔵書室で調べ物をしている。
とはいえ、殆どはバルンが目を通したことがある本だ。
的確に読みたい本を選んで読んでいる。
今読んでいるのは歴史書、 魔王城ができたときの記録だ。
この魔王城ができたきっかけになった魔人が生まれた経緯についてもしっかりと書いてあった。
おおよそ今より720年前、当時の魔王は歴代最高の力を持っていたとされ、回復の魔術を得意としていた、もちろん戦闘においても負けることはなかった。
あるとき、挑んできた人間と戦い勝利した、人間は大きな怪我を負い、四肢を失ったが命を失うことはなかった。
魔王はそんな人間を気に入って治療を施し四肢を復元した。
その後も、何度かその人間と魔王は戦う、そしてある日魔王は気づいた、その人間の力が徐々に強くなっていると。
ある日、魔王は人間が人間ではなくなっていることに気づいた。
四肢は黒く染まり、人間が操れるはずのない素の力を自在に操った。
その力は魔王に匹敵するものであり、魔王は危機を感じてその人間だったものを封印した、殺すこともできずに、他の魔族の力を借りて罠にハメてやっとのことでだ。
そうして、その後は封印を管理するために封印の部屋の周りに城を建てて、それを魔王の居城とした。
その後、魔王は人間が魔人となった理由を解き明かすことに力を費やし、魔王の座を奪われることになった。
これが魔王城の始まりと、始まりの魔人に関する記録だ。
バルンは以前にもこの記録を読んだことはあったが、改めて読んでみて気になることができた。
当時の魔王が力を借りたいう魔族のことだ。
記録にはそういう魔族がいたという記録だけで名前も何も出てこない、そもそも、魔族同士で協力して何かを成すというのが極めて稀なことだし、名前ぐらい残っていてもいいようなものなのだが。
「それは、魔人の記録か? 何か気になることでもあったか?」
「ああ、どうやらあの部屋に封印されている魔人のことについて書かれているようだ」
バルンはざっとロミロフに書いてある内容を話す。
「それと、記録の中に正体不明の魔族の記述がある」
「正体不明って、インクリスみたいだな」
「インクリスか……、あり得るな」
「本当に? その記録っていつ頃のもの?」
「ざっと720年前、魔王バルクロムから数えて5代前の魔王の時だな」
「じゃあ、もう当時の魔族は死んでいるんじゃないのかい?」
「魔族というのは大抵戦いで死ぬから寿命は不明だ、少なくとも人間よりは長いがな」
そう言うバルンは今127歳、人間の平均寿命は63歳なので少なくとも倍以上は生きることができる。
「つまり、この正体不明の魔族はインクリスってこと?」
「さぁな、確証は無いし、わからないことが共通するからといって同一視することはできんだろう」
「そうか、そうだな」
「しかし、無関係とも言い切れない。
この記録に出てくる魔族がインクリスならば、あの部屋のことを知っているのは納得だ、なにしろ封印した本人なのだからな」
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