5-5:魔王城にて
7度の野営をはさみ、三人は魔王城にたどり着いた。
その間、魔族の襲撃を数回受けたが、バルンが守る暇もなくロミロフが倒してしまっていた。
ロミロフが強いことはわかっていたが、魔族の存在に気づいた次の瞬間には死んでいる、それを何度もやられると流石にバルンでも引く。
かつての魔王バルクロムでもここまで早く単体を消し去ることはできなかった、それは呪文を詠唱する分の時間がかかり、一度に複数を相手取ることには向いていたといだけの差があるだけだ、向いている方向に差はあれど、総合では魔王バルクロムの方が圧倒的に上だ。
しかし、向いている戦闘の差により、一対一ではロミロフの勝利になったわけだが。
(久しぶりだな)
魔王城にたどり着いてバルンの頭に浮かんだのはそれぐらいだった。
「城の中に魔族はいない、魔王が倒された後に逃げ出したらしい」
「なるほど、新魔王はここにはいないと」
「どこかに新しい魔王城でも作っているのかもね、どちらにせよここは放棄された城だ
なぜかはわからないけど、中に生活の痕跡はあっても今も誰かが出入りしているという形跡はない、数日滞在しただけだが一度も魔族は来なかったよ」
「魔族の領域ではあるが安心して滞在できるわけか、それはいいな」
「あと、一部の家具は残されたままだ、ベッドとかね」
「久々にベッドで寝られるのね」
ノエラはまったく歩いたりはしていないが、相当疲れている。
最初の野営を超えた朝、最初の一言が「地面が硬くて眠れなかった」だ。
今まで街から一歩も出たことがなく、暖かく柔らかい寝具を使っていたのだから当然の感想ではある。
夜のテントよりもバルンの背中にいるときの方が眠っていたぐらいだ、当然疲労が取れるわけもなく、精神的にもかなりまいっているだろう。
それを考えると、魔王城について最初に抱く感想が安らかな睡眠というのも納得というものだ。
「早速ノエラはもう寝に行くかい? いい部屋があるんだ、たぶん魔王の使っていた部屋だと思うんだけど、」
(俺の部屋だと、)
「かなり上質なベッドがある、案内しよう」
そうしてノエラはロミロフに手を引かれて行ってしまった、バルンが元々使っていた部屋へ。
そしてバルンは一人、入口広間に残された。
(あの部屋の封印でも確認しに行くか)
バルクロムは、自分が去った後に誰も魔王城に残らないとか、そもそも魔王の座が空席になるなんていうことを想像すらしていなかったため、あの部屋のことを魔王城にいる他の魔族に管理の仕方を伝えるということをしていなかった。
そのため、誰も維持管理をするために魔王城に残るなどということをしなかったのだろう、自分にはその能力はない、何を封印しているのかも知らない。
そんなことのために城に残る魔族はいない、彼らは自分が生き残ることしか考えていないのだから。
(ロミロフは開けられなかったと言っていたし綻びはないのだろうが、一応心配だ)
迷うことなく封印された扉の前まで行き、封印の様子を確認する。
(開いた形跡は無し、錠前も傷一つなし、この様子ならば当分はもつか)
今回の魔王城探索を終え、街へ戻ったら次にいつここを確認しに来ることができるかわからないため、念入りに確認する。
時間をかけてそんなことをしていると、ロミロフがやってきた。
「どこへ行ったのかと思ったら、ここにいたのか」
「ああ、ロミロフか、ノエラはどうだった?」
「すぐに寝たよ、すごい疲れてたんだろうね、満足に寝られていなかっただけじゃなくて、知らない場所に来て、周りの状況がどうなっているのかわからないっていうのは相当精神を削る」
「そうか、寝られたのなら疲れも取れるだろう。
それと、これだろう? 言っていた扉っていうのは」
「そうそう、案内しようと思って探してたのに一人で見つけちゃったのか」
「(最初から知っていたから案内される必要はなかったのだが)ああ、適当に歩き回っていたら見つけた、こんなでかい錠前が付いていて、見るからに上等な封印が施されていたからな」
「ああ、やっぱりわかるんだ、それで、何が封印されてるかとかわかるかい?」
「そうだな、この封印の形式から見るに、魔人だ」
本当は封印の形式からは読み取れないのだが、中身は知っているしロミロフは封印形式についての知識などないからバレやしないだろう。
「魔人って、人間の体に魔族の腕を付けたやつだったよね?」
「ああ、腕に限らないが、人間の欠損部位を魔術を用いて復元すると、暫くしてからその人間は魔人になる、そしてかなり強力な力を持ち、魔族と人間両方と敵対する存在だ」
ここに封印されている最初の魔人は当時の魔王の力を超える力を持っていたという、そしてそれを何とかして封印した魔王は、そこに自らが住むための城を建てた、それを代々魔王が受け継ぎ、封印を維持していく、それが魔王城の成り立ちだ。
「そして、魔王が殺さず封印しているということは非常に強力な魔人だということだろう、間違ってもその剣で触れないことだな、その剣では魔族の張った封印など触れただけで切り裂かれ、効果を失う」
「それは、近づかない方がよさそうだね」
「ああ、もうこの辺りには近づかない方がいいだろう、他に気になった部屋や施設はなかったか? 調べに行こう」
「そうだ、あっちに蔵書室があって――」
そうして、バルンは一度はすべて目を通したことがある魔族の歴史書や、資料をロミロフと共に読むことになった。
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