5-4:魔術の使い方

「今日はこの辺で野営しようか」


「そうだな」


 ロミロフが足を止め提案し、バルンもそれに答える。


 そろそろ日も落ち始め、もう少しすれば森の中は暗くなり始める時間だ。


 ロミロフは荷物を下ろし、テントの用意を、バルンはノエラと荷物を下ろす。


「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは光、それは熱、それは炎、最後に名を、【明るく温かい炎】、現れよ」


 バルンは呪文を唱え、たき火を作る。


「魔術って凄いよな、一瞬で火を起こせるんだ」


 いつも、戦いの時にもっと凄い魔術を目にしているが、火起こしという身近な技術を一瞬で行っているのを見ると、凄さが実感できる。


「まぁな、魔族の角があってのことだ、人間の力ではできん」


「あれ、持ってたんだ、魔族の角」


「ああ魔術を扱う者として当然だ、今まで倒した奴の後片付けをするときに集めていたんだ」


「へぇ、正しい後片付けの仕方でも指導してるのかと思ってたよ」


「何で俺がそんなことをする必要があるんだ、俺は俺に利があることしかしない」


「そういえばそうだったな、君はそういう奴だった」


 ロミロフはバルンがどういうなのかはよく知っている。


 自分のために動き、他人を利用する。


 利用するために他人を助ける、力を貸す。


 他人の損得には無関心で、自分の得にさえなればいい。


 ロミロフの知っているバルンはそういう奴だ。


 だから、魔族の死体を片付けるのを手伝うことで何の利益を得ていたのか気になっていたのだが、魔族の角を集めるためだったらしい。


「そうだ、魔族の角を持っていれば魔術が使えるんだよね、じゃあ俺でも使えるってことか?」


 ロミロフは魔王バルクロムの角を持っている。


 そこらの魔族の何倍もの力を持っているらしいこの角ならば、強い魔術も使えるのだろう。


「やってみたらどうだ?」


「お、おう」


 なんとなく無理だ、と言われるような気がしていたロミロフは少し面食らったが、バルンに促されて先程バルンが唱えていた呪文を復唱する。


「応えよ、素の力よ、汝に形を与える、それは光、それは熱、それは火、最後に名を、【明るく温かい炎】、現れよ」


 しかし、なにも起きなかった。


「何でだ」


「そもそも魔術とは、全ての力のもとになるの力があり、それを操り力に形をと名を与え、思う通りの現象を起こす技だ」


「それで?」


「ロミロフは力を持っていてもそれを操る技術がない、魔術を使えるようになるには、数年の修行を経て、素の力に語りかけることができるようになってからだな」


「そうか、無理か」


 ロミロフは少し残念な気分になりながら、も諦めることにした。


 足りないのは技術、それも年単位の努力の先にあるものだ、少し聞いて真似をした程度でできるものでもあるまい。


「――――現れよ」


 横で聞いていたノエラが真似して呪文を唱えていたようだ。


 そちらにバルンとロミロフが目を向けてみると、


「あ、暖かい」


 ノエラの目の前の地面に小さな炎が現れていた。


「バルン、これできてるよね?」


「あ、ああ、出来ている」


「何でノエラにできるんだ?」


「才能があったか、目が見えない分感覚が鋭敏で素の力を感じとることに長けていたか、その両方か」


 バルンもロミロフも驚いている。


 今、相当な修行をしないとできないと言ったばかりなのにあっさりとノエラがやってのけたのだ。


「まぁ、そういうこともあるのだろう」


 バルンの声にはあまり余裕がなさそうだ、本当に想定外なのだろう。


 その後、携帯食を食べてからバルンとロミロフで交代で見張りをしながら朝を迎えた。

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