5-3:魔王城へ向かう三人

「それでだ、ノエラを連れて魔王城に向かうとなると結構な準備が必要になるが、具体的にどうする?」


「この街の中なら道の形はわかりますけど、外に出るとまったくわかりませんよ」


「誘っておいてなんだけど、よく行くって言ったねノエラ、怖くない?」


「二人を信頼しているので」


「なるほどね、それじゃあその信頼に応えるとしようか」


「ああ、そうだな」


 バルンも行くのは嫌だが、行くとなれば真剣に考えざるをえない。


「ノエラまったくというのはどの程度だ」


「まったくはまったくです、普通の人が目を瞑って歩くのと同じぐらいです」


「そっか、それは厳しいね、魔王城は森の中にあるし、バルンはどうするのがいいと思う?」


「そうだな、ノエラは俺が背負っていこう、見えても見えなくても、数日かけて森の中を歩くのはノエラでは無理だ」


 一日中街の中を歩き続けられても、数日かかって魔族からの襲撃があるかもしれない森の中を歩いて魔王城まで行くというのは不可能だ。


 妥当な判断だろう。


「じゃあ、背負子がいるね、ノエラはそれでいいよね?」


「ええ、問題ありません、私は背負われてゆったりと行くことにします」


「よし、じゃあ次ね、魔族に襲われたとき」


「いつも通りでいいだろう、気づいた者が声を上げ、それに従いロミロフが殺しに、俺が守る」


「そうだね、それでいい」


「私を背負いながらで大丈夫ですか?」


「主に動くのはロミロフだ、俺は警戒しながら呪文を唱えるだけだからな」


「ノエラは振り落とされないようにだけ気を付けていればいいよ」


「そうですか、気を付けます」


 こうして、魔王城に向かう途中でのいろいろな取り決めをして、この日は解散となった。


 → → →


「ノエラ本当に大丈夫なのか?」


「なにがですか?」


 ロミロフが帰った後、夕食の準備をしながらバルンはノエラに尋ねる。


「本当に魔王城に着いてきてもいいのかってことだ」


「ああ、そのことですか。むしろ何か問題がありますか?」


「いや、危険だぞ、というのあるが、見えないのに、知らない場所に行くというのは怖くないか?」


 バルンはできれば今からでも行かない、と言ってもらえたら助かるということもあるが、本当にノエラはこれで良かったのかと、ノエラの真意が気になっての質問だ。


「大丈夫ですよ、二人を信頼していますから。危険から守ってくれるという意味でも、私の、友人としても」


「ああ、そうか。まぁ、それでいいと言うのならばいい、ほら、夕飯ができたぞ」


 バルンは友人として、という前に少し言い淀んだ気がして、本当は別の事を言おうとしたのではないかとも思ったが、聞かないでおくことにした。


 → → →


「さて、出発するけど忘れ物はないかな?」


「大丈夫です」


「大丈夫だ」


 想定している日数の食糧他、魔王城に行って帰ってくるのに必要になるであろう物資を一通り用意した。


 殆どの荷物を背負っているのはロミロフで、他の少量の荷物をバルンが背負ってその荷物の上にノエラが座っている。


「バルン、重くないか?」


「大丈夫だ、ノエラは軽いからな」


「そうです、私は重くありませんからね」


「そうか、ならいいんだ」


 実際、そこそこ大きめの荷物と人間一人を背負っている、あまり肉体的に力のなさそうな見た目のバルンが背負えているというのは周りから見たら不思議な光景だ。


 ロミロフが重くないか?と聞くのも無理はない。


 それがノエラに対して失礼だと思っても、だ。


 三人は街の北門から出た、まだ少しの間は人間の世界だが、いつ魔族が現れてもおかしくはない場所だ。


 ロミロフ一人だけならばこんなところはさっさと走って抜けるのだが、ノエラを背負っているバルンが一緒ではゆっくり行くしかない。


 恐らく片道8日程かかるだろう。


 ロミロフは野営に慣れているが、バルンはあまり慣れているわけではないし、ノエラなど初めてだ。


 ロミロフが最初に考えていた以上にこの旅路はロミロフの負担が大きいものになるだろう。


(まぁ、言い出したのは俺だし、仕方ないか)


 ロミロフはそう、納得させるよう自分に言い聞かせる。


 こうして白銀の鎧を纏ったロミロフと、黒いローブで頭まで覆ったバルンと、黒い服を着たノエラは魔王城へ向けて歩き始めた。

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