5-2:魔王城の話

「ああ、そうだ。魔王城に行く途中でインクリスの影に声をかけられたよ」


 魔王城であったことの報告を一通りした後にロミロフが言った。


「インクリスか」


「バルンの方には来てないかい?」


「いや、来てないな、いつ会ったんだ」


「行きと帰りに一回ずつ、ちょっと呟いたときに話しかけてきたよ」


「よくわからないな」


「でも、意味ありげなことだけ言って消えるんだよね」


「なんて?」


「行きは『魔王城に行くんだね? 道中気を付けてね』」


「魔王城に行く道中、何かあったか?」


「何も、むしろ前に行った時よりも何もなかった、何にも会わなかったし、何も起きなかった」


「ただ、無駄に警戒させようとしただけじゃないか?」


「俺もそう思ったんだけどね、そういう感じじゃなかったんだよな」


「もしかしたら、インクリスの目的に導かれていてその道中ってことなのかもしれないな」


「インクリスの目的って?」


「さぁな」


「やっぱりわからないよね、あともう一つ、たぶんこっちの方が重要だ」


 インクリスが言っていたこと、


「『全ての魔族を裏切る魔族』、インクリスは自分のことをそう言っていた」


「全ての魔族を裏切る魔族?」


「ああ、確かにそう言っていた、それだけ言って影は消えたよ」


(全ての魔族を裏切る魔族、そんなことを言ってロミロフにいちいちちょっかいを出していることから考えると、インクリスはもしかしたらロミロフに魔族を滅ぼさせようとでもしているのか?)


「混乱させる目的もあるのだろう、記憶には留めても気に留める必要はないだろう」


「考えるだけ時間の無駄か」


「そういうことだな」


「あと、帰りにもう一つ」


「まだあるのか」


 ロミロフに対してはそんなに出張ってくるのか。


「帰りにはさっき話した扉のことを聞かれた」


「あの扉のことを?」


(あそこに封印されている魔人のことを知っている魔族は少ない、いや、インクリスならば知っていてもおかしくはないが)


「開けたかい?って、開けてないって言ったら少し安堵していた」


「インクリスがそんなことを言うと、中が気になるな」


「開けてこればよかったかな」


「開かなかったんだろう?」


 話していてバルンはヒヤヒヤしている、顔色もあまりいいことにはなっていない。


 幸いにして、それはロミロフからは顔を覆う影のおかげで見えていないだろうが。


 本当に開けられていたら非常にまずいことになっていた、ロミロフを魔王城に行かせる前に思い出しておくべきだった。


「インクリスが開けなくてよかった、と言ったのなら開けなくてよかったんだろう」


「そうかなぁ」


「ああ、俺も開けなくてよかったと思っている、魔王城で厳重に封印されているなんていかにも怪しい」


「まぁね、俺も嫌な予感がしたから触らずに帰ってきたんだ」


 開けるつもりはなかったらしいことが分かってバルンは安堵した。


「今回分かったことは、新魔王はいなく、インクリスも魔王城にはいなかった、今回の魔王城探索の成果はまぁまぁってところだね」


「そうだな、収穫は多かった」


「やっぱり、今度行くときはバルンも一緒に行かないか?」


 ロミロフがバルンを誘う、


「ノエラはどうする?」


「二人なら守り切れると思うんだけど」


「そうは言ってもな」


(俺は魔王城に戻れないわけではないが、戻るとなると途中で魔族に襲われるだろうし、魔王だとバレる可能性もあるしな)


「ノエラはどうしたい? ノエラが決めていいぞ」


「私ですか?」


 少し話に飽きてきていたのか、もらった首飾りを触っていたおノエラは少し驚いた様子を見せて返事をした。


「そうですねぇ、護ってくれるというのなら行ってみてもいいですね」


 ノエラは行かないと言ってくれるだろうと思っていたバルンは当てが外れたことに驚き、決定権をノエラに渡したことを少し後悔した。


「なっ…………」


「じゃあ決まりだな、いつ行くかはまた決めるとして、三人で魔王城に行くことは決まりだ」


「そうですね、私も街の外に出るのは初めてなのでちょっとわくわくします」


「まぁ仕方ないか。ロミロフ、俺は守るだけだからな、強い魔族が襲ってきたらお前だけが頼りだ、わかっていると思うが口を開く前に殺せよ」


「ああ分かっているさ、襲い掛かってきた魔族とは話し合う余地はない」


 ロミロフにはバルンが言った意味がしっかりと伝わったようだ。

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