4-5:封印されている部屋

「ん、この部屋は」


 ロミロフは殆ど鍵のかかっていない部屋が続いた中で、一つだけ厳重に鍵のかかった部屋をみつけた。


 ここが、バルンの言っていた宝物庫だろうか。


 見るからに頑丈そうな錠前がかかっているし、取っ手を掴んでみた感じ、物理的な方法以外で、魔術を用いた施錠がされている。


(これは開きそうにないな、他の部屋でも探すか)


 場所だけ記憶して他の扉を探す。


(そういえば、お土産を持って帰るという約束をしていたな、何がいいだろうか)


 魔王城は思っていたよりも小物に乏しい。


 もしかしたら前の魔王が死んだ時に城に住んでいた魔族がいろいろ持ち出したからかもしれないが、何にも残っていない。


(宝物庫が開くのであれば適当な装飾品でも見繕ってやろうと思っていたが、開かなかったし違う何かを探した方がいいな)


 まだ、回っていない部屋はたくさん残っている。


 おそらく隠し部屋などもあるだろうし、どれほど時間がかかるかも検討が付かない。


「あー、疲れたなぁ」


 誰もいない廊下に誰かに話しかけるように言う。


 時たまこうやって、話しかけることでインクリスが出てくるんじゃないかと思っているのだが、魔族の領域に入ってすぐの時以降一度も現れていない。


(たぶん、見ていると思うんだけどなぁ)


 視線を感じているわけではないが、恐らくインクリスのような者ならほぼ常にこちらを見ているという、経験からくるある種の確信がロミロフにはあった。


 干渉してこないということは、干渉してこない理由でもあるのだろうが、ロミロフはインクリスの言っていた一言が気になっていた。


『魔王城へ行くんだろう? 道中気を付けるといいよ』


 そう言われて警戒しながら魔王城まで来たというのに、何も起きなかった。


 他の魔族に襲われたりもしなかった、ただの精神的疲労を誘うために言ったということもないだろう。


 インクリスが『気を付けるといいよ』と言ったからには、何かが起きる。


 そして、言っていた『道中』とは、魔王城にたどり着くまでの道中ではないのかもしれない。


(あの時、バルンが言っていたのはこのことか)


 いつかバルンが言っていたことを思い出す、知略に長けた魔族は普通は騙されないようなロミロフのような者を狙って騙しに来ると。


「まったく、本当に厄介だな、頭のいい魔族っていうやつは」


 次の扉を開けながらそう呟く。


「あれ、こっちも宝物庫なのかな」


 そこには宝石が散りばめられた煌びやかな装飾品や、宝剣等々の価値がありそうな物が並んだ部屋、まさに宝物庫と呼ばれるような部屋だ。


(特に錠前がされていたわけでも魔術的な封印がされていたわけでもないし、こっちが宝物庫だとするとあっちの扉はなんだったんだろう)


 そうロミロフは思ったが、開かない扉に興味はあるが割ける時間はない。


(また今度来た時に調べよう、できればバルンも連れてきたいんだけどノエラを一人で残してくるのもなぁ)


 以前の一人で暮らしていた時のノエラならともかく、今のノエラは一人で残して行くのは心配だ、インクリスとも接触している。


(今頃、どうしているだろうか)


 → → →


「そういえば、最近はゆ」


 夕食の買い物に来ていると、店主がうっかりロミロフのことを勇者だと口走りそうになって、バルンが慌てて口を塞いで


「ノエラの前でそれは言うな、本人の望みだ」


 そう小声で伝えた。


「あ、ああ、そうなのか、えーと、ロミロフだったか」


 少し思い出すのに間があったが名前の方を出したので、頷いて続きを促す。


 勇者と言っても名前の方はあまり知られていないらしいな、魔族の方では名乗ってから戦いを挑んでくるので、勇者ロミロフという名が知れ渡っていたが人間の方ではそうでもないらしい。


「ロミロフはどうしているんだ?」


(また厄介なことを聞きよって)


 何を言うかなんて先にはわからないし、言うことを全て止めていたらノエラにも怪しまれるし、店主にもより嫌われるだろう。


 そしてこの質問の答えはノエラより、店主に聞かせにくい。


「ノエラ、ロミロフが魔王城に行っていることは他の人には秘密だ」


 店主に聞こえないような小声でノエラに言う、ノエラの耳ならば聞こえるだろうという程度の小声だ。


「ロミロフは自分が魔王城に行っているということは他の人には内緒にしてくれと言っていた、あいつも強いからな、そんな奴がわざわざ魔王城に向かっているとなると、いらぬ不安を与えてしまうかもしれないからと、そう言っていた」


 返事はなかったが、少し頷いたので伝わったのだろう。


「そうですね、ロミロフは少し修行に行くと言っていたので、少しの間は来ませんね」


「ああ、10日ぐらいの間帰ってこないと言っていたな」


「へぇ、修行にねぇ、十分強いと思うんだが」


「あいつは努力家だからな、自己研鑽を惜しまない」


(そういえば、今頃ロミロフは魔王城に着いているだろうか)


 ロミロフの話題が出たことで、そろそろ着いた頃だということを思い出す。


(魔王城の現状を見てきてほしかったから止めなかったが、魔王城には何か、危険なものがあったような気がする)


「あ、」


「どうしました?」


「いや、なんでもない。以前住んでいた家を出るときに、置いてきてしまったものを思い出しただけだ」


「そうですか」


 恐らくノエラはなぜ今そんなことを思い出したのかと疑問に思っていることだろう。


(ロミロフがあの扉に何もしないといいが…………)


 バルンは、魔王城に封印されている物を忘れていたことを思い出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る