4-3:影も形もない者
森を進む、前回のような違和感は感じない。
「今回はインクリスの結界もないみたいだな」
「うん、どうせ見破られちゃうからね」
「っ!」
ロミロフの独り言に、返事をする声があった。
「やぁ、勇者ロミロフ。僕は」
「インクリスの影、だな」
「やだなぁ、最後まで言わせてくれよ」
声をかけてきたのは前回にも会った、魔族インクリスの影。
あいかわらず姿は不鮮明で、人型なのはわかるが姿は認識できない。
「城へ行くんだろう? 道中気をつけるといいよ」
「魔族に心配されるとはな、貴様、何者だ?」
「僕はインクリス、全ての魔族を裏切る魔族さ」
「裏切りの魔族?」
聞き返した時には既に影のは消えていた、まさに影も形もというやつだ。
「俺は魔族ではないけど、裏切られた気分だな」
魔族の話を話半分とはいえ、聞いてしまうのはちょっと危険かもしれないな、そんなことを考えながら足を進める。
→ → →
(よく眠っているな)
すやすやと寝息を立てるノエラの横に転がっている器を拾って洗い場に置いておく。
「巻き込んでしまったかもなぁ」
呟く、以前から襲って来ていた雑魚魔族はロミロフ狙いだっただろうが、インクリスは間違いなくバルンに引かれてきたようなものだ。
ノエラは戦いに生きてきたわけではないし、バルンがこの街に来なければ魔族とも無縁でいられただろう。
周りの人間からも愛されている、悪人からも夜ならば逃げることができる。
それならば、バルンは来ない方がノエラは幸せだったのではないだろうか。
などとロミロフがバルンの立場だったのならば考えたかもしれないが、バルンは魔族、基本的に自分本位の考え方だ。
(ノエラの家に泊まることになったのは仕方なかったが、ロミロフとの共闘をしたのがまずかっただろうか、あれさえなければインクリスに見つからなかった可能性は高い)
自分が要因だとは考えても消えるべきだとは考えない、それは自分にとって不利益になるからだ。
あくまでも自分が利益を得ながらノエラの現状を改善してやりたいと考える。
(まぁ、インクリスを倒してしまうのが手っ取り早いんだが、城にいたとしても今回のロミロフの探索からも逃げ出すんだろうしな、できれば情報が欲しい、インクリスについて知っている奴とかいないのだろうか。
人間にはまったく期待できないだろうな、強力な魔族ではあるのにロミロフが名前も知らなかったぐらいだ、一度も人間側に名を名乗ったりしていないのだろう)
力のある魔族は結構人間の領域に来て兵士を相手にした後に名乗ってから帰ったりする。
そうすることで強い人間が戦いを挑みに来れるようにするためだ。
名乗って帰った魔族の情報ぐらい、勇者ロミロフともあろうものが知らないわけがない。
むしろ、名乗って帰ってきた魔族はほとんどロミロフに倒されているのだ。
(インクリスのことを知っている魔族、いるのだろうか。俺ですら名前と使い魔の姿、影と話したことがあるぐらいのものだ、もしかしたら近い魔族がいるのかもしれないが、今の俺が話を聞きに行くわけにもいかないだろうな)
うーん、と唸っていると、ノエラが目を覚ました。
「バルン?」
「ん、ああ、起こしてしまったか。頭痛は収まったか?」
「うん、だいぶね」
「それは良かった、これに懲りたらもう酒を飲みすぎないことだ。ロミロフが帰ってきたらまた、帰還祝いと称して昨日みたいなことをするらしいから、気を付けるんだぞ」
「そうする」
ノエラはやはり後悔しているようだ。
(まぁ、一日中うなされていたんだ、嫌にもなるか)
「たまに飲む程度ならいいものだぞ、もちろん少量ならだが」
「そうなのかなぁ」
「ああ、帰還祝いではいい飲み方を教えてやろう、それで、今夜はどうする? 夕食、食べられるか?」
「う―ん、無理かも」
「そうか、なら胃に優しい飲み物を用意してやるから、それだけ飲んでおくといい」
昼に買ってきた材料を使って暖かい飲み物を用意する。
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