3-5:インクリスという魔族
「やぁ、ただいま」
「おかえり、早かったな」
ロミロフが帰ってきた、出発してから三日目の夕方。
「ちょっとね、何があったかは中で話すよ」
「さっさと入れ、お前が帰ってくるのを待っていた」
「へぇ、待っていたんだ」
「ああ、俺一人ではどうにもならない問題があってな」
「バルンがそこまで言うなんて、なかなか厄介なことのようだ、俺で解決できるだろうか」
「ああ、お前がいればすぐにでも解決する、ノエラ、ロミロフが帰ってきたぞ」
自室に閉じこもってたノエラを呼ぶ、やっとこれで抱えていた問題が一つ解決すると、バルンは安堵した。
「ロミロフが帰ってきたんですか、いいでしょう、ロミロフ、そこに座りなさい」
呼ばれてすぐに自室から飛び出してきたノエラが怒気を孕んだ声でロミロフに言う。
「お、なんだノエラ、なんなんだ?」
言われるがままに座るロミロフ。
バルンは自分にあてがわれた自室に逃げる、扉越しにノエラの怒りが聞こえるが聞こえないことにする。
(耳がいいのも考え物だな)
→ → →
「気が済んだか、ノエラ」
怒りの声が聞こえなくなったのでバルンは自室から出てきた。
「ええ、バルン」
「ノエラって怒ると結構怖いんだな」
ノエラの説教はロミロフにしっかり効いたようだ、本当に今度から危険な場所に行く前にノエラに言ってから行くかは別として。
「さて、本題に入ろうか」
「今のが本題というわけではなかったんだね」
「当然だろう」
「よかった、それでどういう話だい」
三人でノエラの家で話すのは三日ぶり程度だが、久しぶりな気がする。
「俺が一人の時に魔族から接触してきた」
先日あったことを思い出し話す。
「なんだって!? 大丈夫だったのか」
「それ、私も聞いてないんですけど」
「ああ、今初めて言ったからな。
接触してきた魔族の名はインクリス、接触してきたと言っても影だったが」
夢現の状態で話しかけてきたことを話す。ノエラが何か言いたげだがバルンは無視する。
「唆された、お前を殺せば力をやるとな」
「ふぅん、それで、君は俺を殺すのか?」
「殺すわけがないだろう、殺す理由がないしな」
「そうか、俺も、そのインクリスの影とやらを名乗る奴に会ったよ」
「どこでだ」
「魔族の領域、入口あたりの森に道を惑わす結界を張っていたからそれを逆手に取って辿ってやったら見つけた、名乗っただけで逃げて行ったがな」
「名乗って?」
「自分はインクリスの影であることだけをね、名前だけ聞いたから斬ろうと思ったら溶けて消えた、姿は乱れていてわからなかった」
(インクリスの影が名乗って消えた、か。だめだ、まったく意図が読めない)
「その、インクリスという人、私のところにも来ましたよ」
ノエラがなんということもなさそうに言う。
「なんだと!? いつだ、いつ来た」
「一昨日、バルンが出かけているときに訪ねてきたんだけど」
「何を言われた?」
「『僕はインクリス、王によろしくね』ってだけ、それだけ言った後にすぐにいなくなっちゃった」
「王だと……」
「魔族が言う王と言ったら魔王だな、死んだはずだろ」
「魔族の王というのは、最強の魔族の称号だ。
力で全ての魔族を従えることができる、それ故に王と呼ばれているに過ぎない」
「つまり」
「新しい魔王がいるということだ」
(これは嘘だ、魔王は最強の魔族の称号だというのは本当で、魔王が死ぬと次の魔王が決まるというのも本当だ、しかし新しい魔王はまだいない、俺がまだ生きているからだ)
「まったく訳がわからないな、新しい魔王がいるのはわかったが俺達にそれぞれ挨拶に来た理由がわからん、意味不明だ」
「何かの目的があるのは間違いないだろうが、俺も全く見当がつかない」
(インクリスは本当によくわからない、他の魔族は滅多に使わないほど効率が悪い使い魔を好んで使ったりする、効率だけで物事を考える奴ではないらしいが、知略に長けていることも知っている、これも奴の遊びなのか、それとも策略の内なのか)
「考えても仕方ないな、もしかしたら何の目的もなく現れただけかもしれない、そういう魔族もいることはいる」
「頭の良い魔族というものは厄介だな」
「まったくだ」
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