3-2:ロミロフのいない日

朝、ロミロフが来てこう言った。


「今日はさ、魔族の領域に行ってみようと思うんだ」


「魔族の領域に?」


「ああ、別にバルンについて来てもらいたいわけじゃないんだ、一応報告にね」


「まぁ、ロミロフならば問題はないだろうが、なんでまた」


「魔王が死んだとはいえ、まだ強力な魔族はいるからね。最近使い魔を送ってきていた奴とか、強力な魔族なんだろう?」


「そうだな、使い魔なんか頻繁に送ってこれるのは非常に強力な魔族だ」


「こっちに直接来ない奴の所にはこちらから行かなければならないからね」


「ああいう奴は面倒だぞ、策略謀略知略、それらの直接戦闘力以外の力を自らの力としている、魔族は力をで序列を決めるものだが、奴らの力は言葉通りのものではない」


かつて、バルクロムが魔王になったときも、そいつらは非常に厄介だった。


「お前は騙されにくそうだが、ああいう奴が一番好むのはそういう奴だ、俺は別にロミロフが誰にやられようと知ったことではないが、角を奪われるのだけは困る、俺に預けて行ってもいいぞ?」


「いや、いいよ。知っていると思うけど、俺は君を信用しているわけではないからね」


「そうだったな、いいだろう、それならば俺はお前の無事を案じなければならないわけだな」


「あはは、ありがとう、無事に帰ってくるよ」


そう言ってロミロフは出発していった。


→ → →


しばらくしてノエラが起きてきた。


「おはようバルン、あれ、今日はロミロフは来ていないのね」


「ああ、ロミロフはしばらく来ないぞ」


「え、どうしてですか?」


「なんでも、魔族の領域に行くそうだ、襲撃も途絶えたことだし、魔族の領域に行って自分の力を示してくるらしい」


絶対に勝てないとなったら魔族も襲ってはこない、脅威になりそうな相手でも自分よりも強い魔族に任せる、強い魔族はその脅威を排除する、それが強い魔族には従う利点であり、強い魔族の負うべき責任でもある。


「大丈夫ですか? ロミロフですよ?」


ノエラが知っているのは普段の強いが無茶をする、うっかり死んでしまいそうな戦い方をするロミロフだ。


「大丈夫だ、ロミロフはああ見えてしぶとい」


バルンもこの街での暮らしで見たロミロフだと心配だが、実際のロミロフは魔族の領域を突き進み魔王バルクロムの城へ到達、魔王バルクロムとの一騎打ちに勝利しているという実績がある。


ただの強いだけの命知らずに出来ることではない。


「せめて一言言ってから行ってほしかったです」


「まぁ、来たのはまだ日も登っていないような早い時間だったしな、起こすのも悪いと思ったんだろう」


「それは、まぁしかたないですけど」


「すぐに帰ってくるさ、ほら朝食はそこにできてるよ」


「それは、まぁ、そうでしょうけど、いただきます」


「うむ、ゆっくり食え」


まだ納得いかないようだったが、朝食を与えたことで多少落ち着いたようだ。


「あ、そうだ」


「どうした?」


「今日は私は家にいるので、夕食の買い物は一人で行ってきてください」


「どうした?」


「私はちょっと怒っているので、今日は家でちょっと怒りを発散します」


「ああ、そうか。そうだな、ならば今日は一人で行くことにしよう」


「お昼もいりません、ご飯は夜だけお願いします、しばらく外でうろうろしてきてください」


「わかった、まぁ、帰ってきたときの為にも怒りをとっておいた方がいいぞ」


「わかりました、そうすることにしますね」


→ → →


(さて、どうするか)


突然一日の暇を出されてやることもなく街をぶらつくバルン、当然いつもの恰好で顔は影に覆われている。


特に行く当てもなくその足は普段の道のりを辿り、向かった先は北通りの空き家通り。


一人だが四人掛けの席に腰かけ、どうするか考える。


と、そんんなことを考えているうちにバルンを眠気が襲いはじめた。

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