2-5:疑う者、警戒する者

「バルン、お前は何者だ?」


 剣を抜きそうになった、そこまでは至らずとも、腰に手が伸びた、返答次第ではこの手は剣を抜くだろう。


「…………」


 ロミロフの問にバルンは答えない、顔は影で覆われておりどのような表情をしているのかは読み取れない。


「答えてくれ、バルン、お前は一体、何者なんだ」


 博識で、頼りになる仲間になれると思った。


「俺は、恐らくロミロフが思っていたような人間ではない」


 少しの沈黙の後にバルンが話し始めた。


「隠していることもあるし、ノエラと暮らしているのも、ロミロフと共に魔族を倒しているのも、自分のためだ」


 少しずつ、言葉を紡いでいく、その言葉はロミロフからの疑いを晴らそうとではなく。


「だが、今の俺にはロミロフの敵になる理由がない、これは真実だ」


 己の真実を示す言葉を、バルンはロミロフに示した。


「なるほど、よくわかった。バルン、君はは俺が思ってた通りだった、利己的であり、自身のためならば他者を利用することも厭わない、俺に価値があるから共にいる、そんなことはわかっていたさ。まぁ、いいだろう、もう君の正体は詮索しないことにしよう」


「いいのか?」


「いいとも、ただし勘違いしないことだ、君を疑うのをやめたわけではない、そうだな、今朝の礼とでも思っておいてくれ」


「ならば俺もノエラにうっかり話すことがないように気を付けなければな」


「そうすることだ、ではまた明日、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 → → →


「何を話してたんです」


 家の中に入るとノエラが声をかけてきた。


「内緒だ、わざわざ二人で話してきたんだ、言えることではない」


「そうですか」


「そうさ、さて、晩御飯にしようか」


「そうですね、お腹すきましたし」


 それからしばらくは、朝起きてロミロフを迎え、夜に使い魔を倒したり見かけたりの報告をしたり、今日はどこに行こうか等の打ち合わせをしながらノエラが起きてくるのを待ち、ロミロフを誘い朝食、三人で食べる。


 先程の打ち合わせで来てた場所を中心に散策しながら、魔族の襲撃を警戒する。


 そして二、三日に一度くらいの間隔で魔族の襲撃がありそれを返り討ちにする。


 夕方になったら夕食の買い物をしてノエラの家に帰りロミロフと別れる。


 そんな生活が続いた。


 そして、ある日の夜。


(大分集まったな)


 バルンが机の上に並べているのは魔族の角、自分のではなくロミロフを襲ってきた魔族の物だ。


(並べてみて思うが、最近来る奴等はそれなりに強い奴が多いな)


 殆どはロミロフに一刀のもと切り捨てられているのだが、角を見る限りでは徐々にが強くなっているようだ。


(あいつが負けたか、しかしあいつよりも強い俺ならばと思って来ているのだろうか)


 短絡的で考えが足りない、簡単に言えば馬鹿である。


(魔族とはそこまで馬鹿なものだっただろうか)


 今はその方が都合がいいが、何かおかしいような気がしながらも、並べた角を片付けて眠りにつく。


 → → →


 朝、バルンが目を覚ますとロミロフが来ていた。


「どうした、早いな」


「早くないさ、もうノエラも起きてるよ」


「なに?」


 窓から外を見ると既に日は高く、普段バルンが起きる時間よりも遅い時間であることを示した。


「少々寝坊したか」


「珍しいじゃないか、バルンがノエラよりも遅いなんて」


「たまにはそういうこともある、それで、今日はどうする?」


「そうだなぁ、昨日も一昨日も来なかったし、今日辺り来そうだしな」


 最近の襲撃周期から今日に襲撃があるかどうかの予想を立てる、その予想では今日は来る日だ。


「ならば、北通りへ行くか」


「そうだな」


 北通りは大きな通りだが、人がほとんどいない、店も家も空き家ばかりだ。


 ノエラも最近までは知らなかったらしい。


「だって、あっちの方は行ったことなかったから」とのことだ。


 魔族の領域に近いこともあって最近は北通りを主な魔族待ちの場所にしている。


「さて、バルンも用意ができたようだし、行こうか」


 あの一件からのバルンとロミロフの関係は、今まで通りに見える、元々ロミロフにとってバルンは疑わしい相手であり、バルンにとってロミロフは警戒すべき相手だ。


 怪しむ要素が増え、警戒する要素が増えただけだ。


 つまりは、何も変わっていない。

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