2-2:これからの話

「あー、疲れた、このお茶おいしいね、どこで買ったの?」


「南通りのお店、あそこの店主のおすすめをいつも買ってるの」


 ノエラの家でお茶を飲んでいるのはバルンではなく、ロミロフ。


 今、バルンは一人で先ほど倒した魔族の死体の片付けを手伝っている 。


「ところで、バルンにはなぜ声をかけたんだい」


(本人がいるところでは絶対に本当のことは言わないだろうしね、今ぐらいしか聞ける機会はないだろう)


「バルンですか、彼は強そうでしたし何やら事情もあるようで、従順に使えそうだったとかそんなところですね。まぁ、困ってそうで、それを解消してあげられそうだったってのも本当ですけど」


「へぇ、君らしいね」


「そりゃあ私も善意だけで人を助ける程お人よしでも、生活に余裕があるわけでもないですからね」


 ノエラは仕事もなく収入もない少女で、親が残していってくれた資産を切り崩して生活をしている、一人で他者からの善意の施しがあってやっと生活が成り立っているようなものだ。

 本来ならば他人に手を差し伸べられる立場ではない。


 それはロミロフも理解しているし、多少の手助けはしていた。

 それだから疑問なのだ、彼を雇うだけの価値が存在するのかどうか、なぜ雇ったのか。


「それに、彼は都合がいいですから」


「都合が? それはどういう」


「ただいま、まったく、ロミロフも手伝っていけ」


 バルンが帰ってきた、ロミロフは仕方なく質問を中断する。


「おかえり、手伝いは君が申し出たんだろう?」


「それはそうだが、何の話をしてたんだ?」


「特に、何も」


「? そうか」


「さて、そろったことだし始めようか」


「これからの話、だな」


「できるだけ3人で行動しようってことだけど、どれくらいの間だい? 魔族の襲撃が収まるまで?」


「そんなものいつ収まるかわからんぞ」


「俺もできれば早めに魔族の根城を襲撃に行きたい、防衛戦はあまり好きじゃないんだ」


「それだとノエラは連れていけないし、街に置いていくにしても危険だ」


「できれば魔族の狙いをはっきりさせておきたいんだけどね、バルンは何か知らないかい?」


「なぜ俺に聞く」


「詳しそうだから、かな。前は魔術に詳しいって言ってたけど、魔族にも詳しいんじゃないか?」


「そういえば、魔族の研究をしてたとも言ってましたね」


「やっぱり詳しいんだね」


「多少は、だ。まぁいい、俺の知っている魔族というものを少し語ろうか、魔族は個人としての力が強い者に惹かれる性質がある」


「強い者に?」


「ああ、魔族は個の力を意識する、この街の兵士達のように統率された集団としての力がいくら強くとも興味の対象にはならない、おそらくロミロフの個の強さに惹かれて街へやってきている」


「俺の強さにか」


「魔族は強い者を倒すことで、自らを強い、より優秀なものとするんだ。

ある程度の力の差がありさえすれば勝負を挑んだりはしないが、そうして魔族の力関係というのは作られる、最近人間に討たれてしまって空席となっているが、その頂点となるのが魔王だな」


(俺が倒した魔王バルクロムが最も強い魔族だったということか)


「それに、ロミロフはとやらの角も持っているだろう? 魔族の角は力の塊だからな、それを狙っているということも考えられる」


「ああ、あれか、魔族にとって角が重要だって話は聞いたことがあるが、狙われる原因になるとは」


「なるさ、強者の角を手に入れられれば、強者の力を手に入れたのと同じこと、それを人間が持っているとなれば、それは襲われるだろう」


「その人間がどれだけ強くても?」


「魔族間では明確な力の差が感じ取れても、人間相手だと多少鈍る、もしかしたら、と思ってしまうんだろう」


「へぇ、やっぱり研究していただけのことはあって、詳しいんだね」


(魔王を倒した俺を倒すことで自らの力を証明すると同時に、俺の持っている魔王の角の力をとりこみたい、そういう意図を持って俺を襲ってきているのだろうか)


「ん、まぁ多少な、多少、過去の書物と俺の推測から成り立つ仮説のようなものだ」


「それでも役に立つよ、つまり俺がこの角を持っていると俺のところに魔族がやってくると」


「そういうことになるな」


「面倒なものを拾ってきてしまったもんだ」


「襲い掛かってくる魔族を倒せるロミロフが持っていて良かったじゃないか、俺に預ければ襲い掛かってくる魔族の半分は受け持ってやれるが」


「ちょっと迷うな、まぁ、もう絶対に無理、助けてほしいとなったら預けるよ」


「む、そうか」


 → → →


(また、語りすぎた)


 バルンは反省する、これでは自分の正体を隠す気があったのかと、バレた後で疑われそうなものだ。


「さて、今日のところは解散でいいかな、俺は近くの宿に泊まってるから、魔族が襲撃してきたような音が聞こえたら様子を見に来てくれ」


 そう言ってロミロフは帰っていった。


「うちに泊まればいいのに」


 ノエラは本気で言っているのか冗談で言っているのかはわからないが、そんなことを呟く。


「そういう訳にもいかないだろう、無防備なところを襲撃されてはさすがのロミロフと言えども、ノエラを守り切れないと判断したからこそ、外に宿をとっているのだろう」


「その宿の人たちは?」


「…………ある程度戦える者が集まっている宿なんだろう」


(同じ宿で寝泊まりするのも御免だったが、同じ家の同じ部屋で寝ることにならなくて本当によかった、寝ているとフードがずり落ちていることがよくあるし、すぐに正体がバレていただろうな)


「たぶん大丈夫ですね、ロミロフさんは強いですし」


「ああ、ロミロフは強い、そこらの魔族が襲って来ても宿の窓から飛び出してバッサリとやるだろう、着地を考えているかは別としてだ、それに夜に飛ぶ魔族はあまり強くはない」


「そうなの?」


「ああ、力のある魔族は夜ではなく昼間に活動する、隠れる必要がないからな。

夜に活動するのは昼間だと獲物を獲れなくて、昼間には夜よりも暗い影のできる場所で隠れているような雑魚だけだ、地上から来るようなものなら兵士が街に入る前に倒すだろうし、夜に飛ぶものはそもそも弱すぎてロミロフを襲うなんてこともできない」


「へぇ、やっぱりバルンは魔族に詳しいです、まるで…………、いえ、そろそろ寝ましょうか」


「ああ、そうだな、俺は片付けをしてから寝るから、先に寝ててくれ」


「そうですね、ではおやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


 ノエラは寝室へ入っていき、扉を閉めたことを確認したバルンは、呪文の詠唱を始める。


(一応、この家の守りは強化しておいた方がいいだろう)


「応えよ、素の力よ、汝に形を与える。それは光、それは闇、それは迷宮、最後に名を、【誤った導き】、現れよ」


 対象を魔族に取った幻影の結界を張る、 寝ている間に魔族の襲撃がこちらに来てもロミロフのところまで逃げるくらいの時間は稼げるだろう。


(今までこちらに魔族の攻撃はなかったし、わざわざこんな結界を張る必要もないとは思うが、一応な)


「さて、寝るか」


 寝床に向かおうとして、ふとさっきなんとノエラに言ったかを思い出し、バルンは食器等を片付けにかかる。

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