Recession 3

 スコップは鉄パイプによって綺麗に躱されていた。

ゾンビではない生存者だ。もっともこの状況ではどちらでも最悪だが。


「あ、あの。すいませんでした!」


 日本に古くから伝わる手のひら地面に置き、額を地に付ける姿勢。専ら土下座と呼ばれる姿勢で俺は謝る。


返ってきた答えは意外なものだった。

「それは、踏めということなの?」


 思っていた以上に若い、そして女性の声だ。

俺の渾身の一撃は見るからにか弱そうな女の子に防がれたのだと思うと恥ずかしい。


 

「踏んで気が済むなら何度でも」


「冗談よ、別に気にしてないわ。ただ、か弱い乙女を危うく傷つけるところだったと自覚しなさい」


そう言って現れた彼女は壁の隙間から漏れる光に照らされている。

とても美しく見えた。ただその顔にはまだ若干の幼さが残っている。

身長は160ぐらいだろうか。

ツーサイドアップの人間は現実では初めて見たけどよく似合っていると俺は思う。



「は、はい。すいませんでした」


「でも、久しぶりにまともな生存者に会った。あなたはここに住んでた生き残り?」


「いや、違います。今は少し離れたところに住んでます」


「で、ここには何をしに?」


 事情聴取が始まっているが文句を言える立場ではないのでおとなしく答えよう。


「野菜の種を取りに」


「なるほど。発電機はどこにあるか分かる?」


 発電機。

ガソリン等の燃料を燃やして電気作るあれだ。ヒモを引っ張るやつ。かなり前に来た時に奥の方にあった気がする。


「それならこの奥にあるかも知れません」


「ありがとう」


「じゃあ、これで。俺は帰りますので」


「まさか、人に怪我を負わせそうになって自分は逃げるなんてことするの」


「え、じゃあどうすれば」


「ここで会ったのも何かの縁、一緒に来なさい。」


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