Recession 2
久しぶりに乗る自転車は地面のせいでもあるがふらつく。
だからと言って車での移動等は避けた方が良いだろう。勿論ゾンビ映画で定番のエンジンがかからない状態を避けるのもあるが、ゾンビとて人間型だ。車というのは案外丈夫ではないと何かで見たことがある。ゾンビを撥ねた時に車が動かなくなり割れたフロントウィンドウに騒ぎを聞きつけたゾンビが密集なんてことも考えられる。
その点移動時に音を抑え、ゾンビより速く動けて壊れづらいと自転車は便利だ。
町並みは大分変ってしまっていてゾンビを倒すために火を使った馬鹿のせいで所々焦げていたりする。
時々ゾンビを見かけるが別に何かあるわけでもない。
まあ見たくはないが。
15分程自転車を漕ぐと、ホームセンターに着いた。
ここで暮らしている人間もいたらしいが今は誰もいないはずだ。
その証拠に物音がしない。
俺はその静まり返った空間に足を踏み入れた。
天井に溜まった雨水が静かに垂れてきている。店内は真っ暗だ。
今日ここに来たのはホームセンターにある大量の植物の種が目当て。後は役に立ちそうな道具があればそれもだ。
幸い土地だけはいくらでもあるから、野菜でも作れれば万々歳。流石に豆苗だけで栄養補給はきついからな。
今のところ食事に不自由していないが動物性たんぱく質が足りているのかあまり自身が無い。ただこればかりはどうしようもない。
ともかく食事事情は今のところ大丈夫。
少し安心できるが油断は禁物だ。気を引き締めつつ種をカバンに詰め込む。ただし育てられる自信のない高難易度のやつと発芽率が異常に低いものは残しておく。俺が育てても無駄になるが他の生存者なら育てられるかもしれないからな。
パッケージの裏を吟味していると無心になっていたようで背後の警戒を忘れていた。俺は馬鹿だ。
何かが動いている音がする。
生存者か、ゾンビか。どっちにしろ危険性がある。近くに落ちていたスコップを握って商品棚の後ろに回る。
なるべく音を立てないように細心の注意を払いながらだ。
そんなことをしているうちに足音は大きくなってきているようだ。自分の鼓動が速くなってきている。この音が聞こえているのではないかという恐怖が頭をよぎる。
手が震える。
こんな距離で得体のしれないものと接するのは初めてだ。
スコップの柄を強く握ろうと握力を掛けようとした。しかし俺の手に感触はなかった。
次の瞬間スコップが地面に落ちた。
静かな空間で金属が出す音は響く。それと同時に足音は早まりこちら側へ向かってきた。
終わった。
思えばなぜスコップなど持ったのだろうか。
相手が何であろうと負けるだろう。逃げることが唯一の生存法だったはずだ。
今更悔やんでも手遅れだが状況を整理しよう。
まず、逃げ道だが角のため二つの方向に逃げられる。
しかし一方は完全に真っ暗で安全確認が出来ない。万が一ゾンビや生存者に俺を見つける方法があったら俺は暗闇の中で殺される。
だがもう一方は恐らく侵入者が来ている方向だ。
さっき俺も来た道で若干くらいが見えないほどではない。簡単に見つかるだろう。
それともう一つだけやれることがある。
スコップを持って奇襲だ。商品棚の裏に隠れてタイミングを見計らって殴り掛かる。恐らく他の策よりかは実行しやすいが成功確率は低い
どれだ?
どれなら生き残れる?
俺は死にたくない。何でこんなところで死ななきゃいけないんだ。俺の理想の死に方は布団の上で家族に看取られて死ぬことだ。こんな冷たい地面に倒れゾンビになるなんて論外じゃないか。
奇襲。
これなら相手より有利な状況で一撃を入れられる。
俺でも行けるのではないか?
足音はもうすぐそこまで来ている。
俺は決めた。
落としたスコップをもう一度握りしめ、息をひそめる。
足音が大きくなるのが怖い。棚の隙間からそれらしき人影が見えた。
来た。
確信した俺は無言のまま飛び出しスコップを振りかざした。
手に感触が伝わってくる。
そして音、金属同士がぶつかる音だ。
誰がどう見ても防がれた。
俺は多分死ぬ。
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