本音と建前
瞳に涙を浮かべながら、少女、紀子は教室の扉を開けた。
教室には紀子の親友の珠美が不安そうな表情で待っていた。
「珠美、わたし、フラれちゃった……」
紀子はその言葉と同時、抑えきれなくなったのか、涙が溢れだし、声を出して泣き始めた。
珠美はそっと紀子を抱き寄せ、優しく頭を撫でた。
「ごめんね、わたしが大丈夫、きっと上手くいく、だなんて言ったから……」
「……っ……そんなこと、ない……。わたしも、気持ち、伝えたかったし……」
珠美は親友を思って慰め、紀子はその優しさに甘えていた。紀子は珠美の背中に手を回し、感情を抑えるように拳を強く握っていた。
紀子は顔を伏せ、珠美は優しく抱き締めている。だから、お互いの顔は見えてはいない。心の中ではどう思っているのかも……。
珠美はこう思っていた。
可愛い紀子ちゃん。わたしだけの紀子ちゃん。
辛い思いさせちゃってごめんね。でも、わたしが慰めてあげるから。
紀子ちゃんが立ち直るまでずっと一緒にいてあげるよ。
わたしがいっぱい、いっぱい優しくしてあげる。だから、わたしのこと、好きになってくれてもいいんだよ?
男なんてどうせヤることしか考えてないんだから。でも、わたしは紀子ちゃんの幸せを考えてあげるからね?
そして、紀子はこう思っていた。
ねぇ、珠美、どうして?わたしがフラれるの、知ってたよね?彼、言ってたよ?珠美に先月告白した、って。でも、珠美が告白を勧めてきたのって先週だよね?上手く行くって言ってくれたよね?
珠美のせいで、そう、珠美のせいでわたしはこんな思いをすることになったんだよ?
わたしは想いを伝えるつもりなんてなかった。どうせ、叶わないって思ってたから。
でも、珠美が言うから……。
なのに、それなのに!
絶対に、絶対に許さないから!
どうせ心の中では笑ってるんでしょ!?珠美の言葉を鵜呑みにして、告白して、無様にフラれたわたしのことを!
幸せそうに微笑む珠美と、泣きながらも怒りに震える紀子。
心の内は全く異なっているのに、二人の姿はまるで、愛し合う二人のようだった。
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