ラブレター(再録)

 朝、学校に着いて靴を替えようとしたら、下駄箱に可愛らしい封筒が入っていた。裏を見ると、ハートのシールで封がされている。宛名は、わたし。差出人の名前は書いてない。

 もしかして、ラブレター?なんて、思うけれど、その字は女性らしい字だったから、違うかな、とも思う。

 けれども、少し期待してしまう自分もいて、だから、誰かに見られたくなくて、トイレに入ってこっそりと中を見てみた。


『放課後、屋上で待ってるね。』


 ただ、一言それだけが書いてあった。

 やっぱり、ラブレター?そこで告白される?でも、誰?

 でも、この字、どこかで見覚えがあるんだよね。


 何も分からないまま、時間は過ぎ、放課後になった。一日、この手紙のことを考えていたから、授業の内容は何も覚えていなかった。

 手紙の通りに、わたしは屋上に向かった。

「あ、よかった。ちゃんと来てくれた」

 そこにいたのは、部活の先輩だった。もう引退してしまったけれど、部活のことで話があったのだろう。先輩は元部長、そしてわたしは今の部長。きっと、まだ伝えられてなかったことがあるのだろう。

「あの手紙、先輩だったんですね。名前書いてないから、誰だろうって、気になってたんですよ」

「あれ?名前書いてなかった?あぁ、ごめんね、茉優ちゃん」

 先輩はいつも通りで、今から告白をする、そんな雰囲気は全くなかった。そもそも、女同士なんだから、告白なんてあるわけないよね。いや、別に、期待してた訳じゃないんだけれど……。

「あ、いえ、大丈夫です。それで、部活のこと、ですか?」

「それは心配してないよ。ほら、茉優ちゃん、あたしなんかよりよっぽどしっかりしてるし」

「そんなこと、ないですよ。わたしなんてまだまだです。それで、えと、呼び出した理由って何ですか?」

「茉優ちゃんに会いたかったから。部活引退してから会えなくて、寂しかったんだよねぇ」

 先輩がゆっくりと近づいてくる。

 一歩、また一歩。近付く度にいつもの優しい笑顔がで少しずつ真剣な表情になっていった。

 目の前まで来ると、先輩は緊張と不安のこもった声で話し始めた。

「こんなこと、言うのは変だって思われるかもしれんけど、あたし、茉優ちゃんのこと、好き、なんだよ」

「その、好きっていうのは…?」

「後輩として、とか、友達としての好き、じゃない。あたしは茉優ちゃんに恋してる。やっぱ、変、そう、思うよね?わたしだって分かってる。でも……」

 先輩はそこで口を閉ざしてしまった。何かを言おうとして言えないでいる。

 わたしはそんな先輩に何も言えなかった。

 先輩は真剣だった。よく見ると、足が震えてるのが分かる。こんなの、演技じゃない。先輩はそんなことするような人じゃない。だから、きっと、本当のことなんだ。

 じゃぁ、わたしは?わたしは先輩のこと、どう思ってる?

 返事をしないと、そう思ってわたしは口を開いた。

「先輩、わたしは……」

「ダメ!言わないで!」

 けれど、先輩はわたしの言葉を遮った。そして、その場に崩れ落ちた。両手で顔を覆いながら、今まで聞いたこともないような声で早口に、一方的に、わたしの言葉を聞かないように話し始めた。

「イヤだ。茉優ちゃんに拒絶されたくない!でも、この気持ち、抑えられなかった!引退して、会えなくなって、寂しくて、寂しくて、どうしようもなくて!でも、あたしたちは女同士だし、こんなの変だって思われる!そしたら、今までみたいに普通の会話もできなくなるかもしれない!でも、どうしてもダメだった!今日も、会って、話するだけでもよかった!でも、我慢できなかった!茉優ちゃんの顔、見たら!あたしのこと、変な女だって思ってもいい!でも、嫌われたくない!茉優、ちゃん…」

 顔を上げた先輩は涙でぐちゃぐちゃになっていた。いつも明るくて、部活のみんなを引っ張ってくれていた先輩。わたしはそんな先輩に憧れていた。先輩みたいになりたい、そう思っていた。

 そんな先輩がわたしを…?こんな、ぐちゃぐちゃになっちゃうほど?信じられない。でも、そんな先輩を見て、わたしは自然に身体が動いていた。

「え?茉優ちゃん?」

「正直、びっくりしてます。その、わたし、先輩に憧れたんですよ。先輩みたいになりたい、って。だから、こんなことで拒絶したりなんかしません」

 わたしは先輩を抱き締めながら、ゆっくりと言った。先輩は嗚咽を漏らしながら、わたしにしがみついてきている。優しく背中を撫でながら、わたしは続けた。

「だから、その、好き、とかそういうのは分からないんですけど、これからも仲良くしてくれるとわたしは嬉しいです」

「茉優ちゃん、ありがとう」

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