卒業

「先輩、卒業おめでとうございます……」

「ありがと」

 そう答え、卒業証書を手にした少女は後輩の華澄の頭を優しく撫でた。

「先輩……」

 その事が嬉しくて、でも寂しくて華澄の両の目からついに無数の雫が溢れ出した。

「何で泣くの?こういうとき泣くのは卒業する私、だよね?」

「だって、先輩、東京の大学に行くんですよね?先輩と離れ離れなんて……」

「……ごめんね。でも、一年だから。来年には華澄ちゃんも東京に来よ?」

 その言葉は華澄にとって嬉しいものであるはずだった。けれど、その表情が晴れることはなく、むしろ、さらに暗くなってしまった。

「どうしたの?」

 自分の思ったのとは真逆の反応を示したことを不思議に思い、尋ねるも、華澄はただ首を振るだけで答えようとはしなかった。

 先輩は追求することはなく、優しく華澄を抱き締めた。自らの胸の内にある想いを伝えるかのように。

「華澄ちゃんに何があったのかは知らないけど、それでも私は待ってるから」

 その言葉が引き金になったのか、今まで圧し殺していた声を大きく上げ、華澄はしがみつくように先輩を抱き締めた。

「だって、無理です!お父さんの会社が、倒産して、それで……。なのに、東京に行くとか何で言えるんですか!?」

「……っ」

 その言葉は先輩にとって初耳であった。故に、かける言葉を失い、沈黙することしかできなかった。彼女の涙の理由をはっきりと理解しまったから。

「先輩、わたし、わたし、どうしたらいいんですか?」

 涙でボロボロになった顔で真正面から見つめてくる真っ直ぐな瞳。それを見て先輩は一つの決心をした。

「だったら、来年から一緒に住む?私の下宿先、ワンルームでそんなに広くはないけど、華澄ちゃんがそれでもいいなら、だけど」

「……いいに、決まってます。でも、迷惑じゃ……。先輩にも、先輩の両親にも……」

「大丈夫。華澄ちゃんのためなら私は頑張って説得するから。それに、私も華澄ちゃんと離れるのは辛いし」

 先輩は頬を少し赤らめ、視線をそらしつつ言った。

 華澄はそこまで自分のことを想ってくれていることを嬉しく思い、先程までとは別の涙が流れ始めた。

「約束ですよ。わたし、先輩との生活、楽しみにしてますからね?」

「うん。私も楽しみにしてる」

 そして、二人の少女はどちらからともなく唇を初めて合わせた。



 それからおよそ一年後、華澄は東京の大学に合格し、上京した。そして、東京の狭いアパートに二人はいた。

「今日から、宜しくお願いします、先輩」

「こちらこそ、宜しく、華澄ちゃん」

 華澄の父親は再就職に成功し、独り暮らしを認められた。しかし、先輩との約束、それに何より、自らの願いにより供に暮らすことを選択した。


 ────願わくば、二人の絆が永久のものとなりますように。


 二人の想いは一つに重なっていた。

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