第4話 Kagiのバタービスケット

 スイスという国に、人々はどのようなイメージはあるだろう?


 私はやはり窓の大きな山岳列車が走る、牧羊的な絶景だろうか。

 あと、日本人はアニメ「アルプスの少女ハイジ」のイメージが大きいだろうか。

 実はハイジをしっかりと見たことがないのだけれど、そんな私でも名シーンの数々がすぐに浮かぶ程、ハイジの印象は強い。雪をまとった高い山々に、緑豊かな広大な土地。大きな木造のお屋敷がぽつりぽつりと点在し、水と空気が綺麗なのだろうな、とすぐに浮かぶ。

 いつか、訪れてみたい国だ。でも遠い。日本からは、遠すぎる。それに、行くからには堪能したい。周辺の国々にも行きたい。そうなると最低でも、滞在に1週間は欲しい。働いていると、それもなかなか難しいのだ。日程という面でも、お金という面でも……。どこかに仕事関係でスイスに研修旅行なんて、そんな素敵な職場はないだろうか。

 そんな夢の国、スイスのお菓子が家にあった。


「どうしたの? コレ」

「お父さんの同僚の研修旅行のお土産だって」


 研修旅行で、スイス!?


 そんな素敵な職場が、まさかこんなに近くにあるとは思わなかった。

 なぜ、その役目が父ではなかったのかと悔やまれるが、お土産をいただいただけでもありがたい。

 さっそく、今日のおやつはこのスイスのお土産にしよう。


 さて、そのお土産は、「Kagi」というお菓子メーカーのバタービスケットだった。

 バタービスケットとは書いていたが、袋に書かれたビスケットの絵が、ワッフルのような網目模様の丸いお菓子だった。一瞬、ワッフルビスケットのようだと思ったが、いざ食べてみると食感はあまり似ていなかった。網目が片側だけだからかもしれない。

 分厚く硬めのサクサク食感で、バターの風味が口の中に広がる、とても美味しいバタービスケットだ。

 ビスケットというと、私の中ではなんとなくマリーのビスケットの印象が強いのだけれど、マリービスケットに比べると、少し違う。クッキーと言った方がしっくりくる感じだ。

 サイズは大きめの記念硬貨程なので、一口で食べられる。そこそこの枚数で箱もコンパクトなため、お土産には最適なのだろう。きっとその理由でわが家にもやって来たのだろうから。


 ヨーロッパのお菓子といえば、思うことがひとつある。

 個包装のことだ。日本ではしっかりとした素材で、切り口もちゃんとある。そして、開封の際、袋の“余裕”もある。私は、この“余裕”がとても大切だと思う。この余裕があるからこそ、綺麗に開けられるのだ。

 片やヨーロッパのお菓子は、包装の素材がフィルムのようなシャリシャリした、薄い素材が多い。そして、端にギザギザがあるものも多いが、基本的に切り口の案内はない。そしてなにより、袋の“余裕”がない。商品サイズにやけにピッタリした袋に入っているため、ギザギザから裂いたとしても、すぐに商品にぶつかってしまって、裂けやすいフィルムのような素材も手伝ってか、かなり手前で千切れてしまうのだ。諦めて反対側からまた裂いてみる。が、やはりかなり手前で千切れてしまう。

 商品が中で少し動くくらいの余裕のある袋サイズの方が、一度に綺麗に袋を裂けるのだ。

 これは日本のおもてなし文化の現れだろうか……。

 そんなことを考えながら、今日も私はこのKagiのバタービスケットの開封に失敗した。

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