第3話 惠比須餅舖の花蓮薯

 台湾に、花蓮という都市がある。

 台湾の東部にある、自然豊かな海沿いの街だ。

 大都会となってしまった台北とはうって変わって、流れる時間もゆったりとした、素朴な場所――らしい。

 私自身は行ったことがないので、わからないけれど。


 この度、そんな台湾は花蓮の名物であるという、花蓮薯をいただいた。

 友人は国内だろうが海外だろうが、思い立ったが吉日とばかりに、素早く計画を立てて飛んで行ってしまう。そんなひとり旅上級者の友人が、今回は花蓮に行って来たのだという。

 鳳梨酥に目がない私は、彼女が台湾に行くと聞くと、必ず鳳梨酥をおねだりするのだが、今回届いた荷物の中に、花蓮薯が入っていた。


 商品名と店名が書かれたシンプルな薄い油紙で、まるでキャンディーのように左右をねじっているだけの簡単な包装は、まさに素朴。

 いただいた花蓮薯は、惠比須餅舖というお店のものだった。

 なにやら歴史のありそうな包装紙が気になり、さっそく調べてみたところ、なんと1899年創業の老舗ではないか。しかも、花蓮名物という花蓮薯を最初に作ったお店だと言う。旅慣れた友人のことだ。名物がなにかだけではなく、「どこで」買うべきかも、しっかりとリサーチ済みだったようだ。


 包装を解くと、中にはスイートポテトのような楕円形の可愛らしいお菓子が入っていた。

 食べてみると、ほっくりとお芋の優しい甘さが口に広がる。

 甘さは控えめで、食べながら舟和の芋ようかんを思い出した。芋本来の甘味を壊さぬよう、極力甘味料は控えているのだろう。食感はとても柔らかく、芋の繊維は除かれ、とても滑らかな舌触りだ。


 そういえば、台湾旅行に行った時には、鳳梨酥だけではなく、他のお菓子も食べたものだった。

 台湾といえば茶芸館とばかりに、様々な茶芸館に行った。そして、それぞれの茶芸館に、自慢の茶菓子がある。中に餡が入ったサクサクのパイのように凝ったものや、お餅のようなもの、そして台湾の特産、タロ芋を使った素朴なもの。どれもとても美味しかったことを思い出した。

 そうだ、台湾のお菓子は鳳梨酥だけではない。もっと奥深いものなのだ。花蓮には、この花蓮薯があるように。

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