第2話 Chia Teの鳳黄酥
初めての海外旅行、行き先は台湾だった。
飛行機を降りてすぐ、南国特有のまとわりつくような空気を感じた。
訪れたのが11月という、日本では空気が乾きだす季節だから、かえってそう感じたのかもしれない。その空気感に一気に高揚したのを覚えている。なにしろ初海外。このような空気の違いを感じることもなかったのだ。周囲から聞こえる言語、目に留まる看板、イライラするはずの入国審査の長蛇の列までも、楽しかった。
安い便を使ったため、台湾に着いたのはもう夕方。滞在する台北の中心部まで移動して、ホテルにチェックインすると、街はもう夜だった。
「ちょっと飲み物でも買って来ようか」
友人の言葉に、ホテルのすぐ近くにあったコンビニへと足を運ぶ。コンビニはファミリーマート。日本のコンビニが異国の中心部で煌々と明かりを灯し、営業していることが新鮮だった。
国が違えば、扱う商品もシステムも違う。当然といえば当然なのだけれど、そんな小さなことが目新しい。
私はここで、鳳梨酥と出会った。
勿論、鳳梨酥が台湾土産として定番のお菓子であることは、読み込んだガイドブックで知っていた。例えるならば、ハワイ土産定番のマカダミアナッツチョコのようなものだろうか。何冊かのガイドブックを見たが、いずれも鳳梨酥について書かれていた。その時はさほど、興味はなかった。個包装されているし、バラまきお土産にいいかも、といった程度だった。それが、コンビニで3個1パックで売っていたのだ。値段も安かったので、自分用に買ってみた。
結果、大ハマりしたわけだ。
鳳梨酥は、定番のお菓子として、様々なメーカーが作っている。コンビニで買ったような3個1パックのようなお手軽なものから、カラフルな包装紙が可愛い箱入りのもの。そして、ずっしりと重さを感じる、マットで滑らかな手触りのカッシリした箱に入ったお高いものまで様々だ。後から知ったのだが、地元のパン屋さんやケーキ屋さんなどでも、そのお店手作りの鳳梨酥があるのだという。新竹の友人が一度送ってくれて、感動したものだった。
滞在中、私は最低でも6種類程の鳳梨酥を買ったと思う。それほどに、私は鳳梨酥に心を奪われてしまったのだ。
バターが利いたクッキー生地は、硬すぎず柔らかすぎず。しっとり、ねっとりとしたパイナップルジャムを包み込んでいる。ジャムは特にそれぞれの商品の特徴があり、甘さを際立たせたもの、パイナップルの食感を残したもの、酸味の強いもの。だが、不思議なことに、どれも良い。「この鳳梨酥はマズい」という鳳梨酥に、私はまだ出会ったことがない。
鳳梨酥で残念なことといえば、輸入菓子などが手軽に手に入るようになった現代でも、私の行きつけのカルディやジュピターでは取り扱っていない。田舎の店舗は小さいからだろうか。都会では手に入りやすいものなのだろうか。それでも私が鳳梨酥を忘れずにいられたのは、友人たちのおかげだ。有難いことに、その後も台湾に行く友人や、台湾の大学に数年留学していた友人のおかげで、年に1個は必ず食べてきた。きっと、私が食べた鳳梨酥の種類は、数十になるだろう。
前置きが長くなったけれど、今日食べた鳳梨酥も本当に美味しかった。
今日食べたのは、Chia Teの鳳黄酥。
Chia Teといえば、鳳梨酥の名店だ。なにせ、パイナップルケーキコンテストの初代チャンピオンなのだ。
最近では革新的とも言える鳳梨酥が人気らしいが、この店の鳳梨酥は、昔ながらの鳳梨酥。酸味を抑え、パイナップルの繊維も気にならない。冬瓜の餡と卵の黄身がパイナップルジャムに練り込まれているそうで、食感が滑らかで、とにかく優しい甘さなのだ。クッキーもバターのコクがあり、美味しい。少し柔らかめの生地は、ボロボロになることもなく、口の中で餡と一体化する。さすが初代チャンピオン。
ちなみに、Chia Teの鳳梨酥は、鳳黄酥と表記する。これは、パイナップルケーキに黄身を使っているということなのだそうだ。
ひとつ、勉強になった。
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