第13話
先に動いたのは、ルミアだった。
ほとんど地面に足を着けることなく、低い姿勢で飛ぶようにエレイン王の正面まで一瞬で近づいたルミアは、その勢いにまかせて右の掌底を、顎へ叩き込んだ。だが、それをいとも簡単に片手で防がれ、ルミアの動きが一瞬止まってしまった時に、すかさずエレイン王は、打ち込んだ右腕を掴み後方へ投げ飛ばした。
「きゃあっ!」
勢い良く吹っ飛んだルミアは、地面を転がりながらなんとか体勢を立て直し、起き上がる。
「ルミア。まさかとは思うが、この僕を一撃で仕留められるとでも思っていたのか?2手目が遅すぎるぞ。僕も舐められたものだな」
やれやれと、腰に手をあて頭を振る。
それに対してルミアは、悔しそうに顔を歪めると、再び飛びかかる。
今度は、翻弄させようとかエレイン王の周りをほとんど目に見えないスピードで飛び周り、エレイン王のすぐ後ろに現れたかと思うと、すぐさま膝裏にローキックを打つ。
ドンッ!!と鈍い音が会場に響くが、エレイン王は何も無かったかのように後ろに振り返った。
「何か、したか?」
ルミアは驚愕し、固まってしまった。少なくとも、俺を吹っ飛ばし大木を何本もへし折るだけの力とスピードがルミアにはあるのだが、それでも圧倒的な力の差があった。
その場にうなだれてしまい、微かに独り言の様につぶやいた。
「ど..どうして...倒れないの...?」
「ふんっ。当たり前だ。お前にこの僕が倒されるわけがないだろう。傷1つすら付けられはしない」
ルミアを見下ろしながらそう言う。そして、
「もう十分だろう。負けを認めて僕の所へ帰ってこい」
エレイン王は、ルミアの腕を掴み、強引に引き連れて行こうとする。
「いや..いや!..いや!いや!いや!」
それに抵抗するが、駄々をこねる子供のように簡単に引きづられて行く。だが、抵抗できないとわかったのか、諦めてしまった。
「はぁ...まったくこれだから子供は嫌いなんだ」
なにやら頭を悩ませながら引きずって行くエレイン王に、痺れを切らし、舞台の上に飛び乗る。
「待てっ!!勝手にルミアを連れていくな!!」
エレイン王は鬱陶しそうにこっちを振り向く。
「お前は..確かルミアの...はぁー。お前ももう諦めろ。こいつは僕が連れていく。」
その一言に、なぜか頭に来て、
「諦められるかよっ!ルミアを離せ!!」
そう叫び、飛びかかろうとした時!!
さっと、目の前にマントを深く被った何者かが現れた。口元しか顔が見えないが、なぜか、不敵な笑みを浮かべている。
「ははっ。ルミアを取り返しに来る前に、まずは、そのマントの奴をどうにかするんだな」
エレイン王は、笑いながらそう言うと、奥の方に特設に設置されたいかにもな魔王が座る椅子へ腰掛け、ルミアを膝の上へ座らせる。
「くっ...!邪魔だ!!そこをどけ!!」
手で押しのけようと肩を掴みにかかるが、スッと後ろに少し下がる様にかわし、左手を胸の前まで持っていき、一礼をした。
なんなんだこいつは?と思いながら様子を伺っていると、後ろの方からアナウンスが聞こえてきた。
「えーっと...エレイン様の勝ちでいいんだよな...?じゃあ次は、頼飛と...謎のマント!試合開始!!!」
なんとも気が抜けるライモンの声が入り、カッとなっていた頭が少し収まっていき、一つ深呼吸をした。
ふぅー...さっさとこいつを倒してルミアを取り返してやる!!
でも、このマントの奴に近づくのは危ないな。前の試合で手を当てただけで相手が吹っ飛んだ。どうするか......と、相手との間合いを見ながら考える。
そうしてるうちに、マントの方が男とも、女とも取れない様な声で話してきた。
「お会いできて光栄です!頼飛様。さぁ..どうか私に頼飛様のお力をお見せくださいませ!」
「はっ!?いや、どうしてお前に様付けされないといけないんだ?お前の相手だぞ?」
手を大きく広げながらゆっくりと近づいてくるマントに、様付けされ、さらに警戒心を強める。
どうやって近づかないであいつを倒すか......
そこで、はっ!と思い当たることがあった。そして、それを実行するために後ろへ少し下がり、腰を中段に構え、さらにひねりを加えそれと同時に右拳も一緒に腰の位置で構える。左手は、確実に当てるために相手に手のひらを向けて、照準を合わせる。
「なんだか知らないが、どちみちお前を倒さなきゃルミアを取り返せないんだ。だから、見せてやるよ。」
深く被っているマントの奥から少し見える口元がますます広がって興奮じみた笑みになっていくのを睨みながら俺は、限界まで力を溜める。そして、前にある空気を押し出す感じで一気に拳を前へと突き出し、力を解き放つ。
そうした瞬間!!
俺の拳を中心に前へと爆風が巻き起こり、舞台を削りながらマントの奴に当たったかと思うと、次の瞬間には、凄まじい音と共に遥か先まで建物や、地面までもえぐりながら吹っ飛んでいった。
「や..やばいな...やりすぎた...」
その惨状に、盛り上がっていたはずの皆が、ポカーンと口を開け絶句している。そして、ルミアが叫ぶ。
「ちょっ...ちょっと!そっちの方にあたしの家があるんだけど!!壊れてたらどうしてくれんのよ!!」
「いや...ここまでなるとは思わなくて...」
流石にやりすぎたな。今までの火じゃないほどの威力がでた。これは、あいつも、死んだかな...。
はぁ。とため息をつく。どうしたものかと考えていると、どこからともなく笑い声が響いてきた。
「ふ..ふふ...ふふふ。あはは...はははは...さすがです。後継者様...」
だんだん声が近づいてくるとともに、空中にこの世のものではありえないほど白い、純白の翼を生やしたマントの奴がいた。
「ですが、私を殺せるほどの力はまだないという所を見ると...やはり..まだ半覚醒状態といった所でしょうか..?」
何かブツブツつぶやきながら顎に手を当て考える仕草をしている。そこで、エレイン王が声を張り上げた。
「おいっ!そこのマント!!貴様は...天使だな?なぜ我らの領域にいる」
すると、そのマントの天使が、
「ふっふふふ。それを、あんた達にいう必要がある?」
その言葉にエレイン王がキレ、
「貴様っ!!ここから生きて帰れると思うなよ!!皆のもの!」
そう号令を悪魔達にかけると、すぐさま戦闘態勢に入ったのか今にも飛び出しそうにしている。だが、それを面白そうに挑発する。
「ふふふ...。あんた達の様な地上を這い回って、腕力しか取り柄のない雑魚に、私が殺られるとでも.........えっ!?まさかあの方が見つかったの?...すぐ帰るわ」
と、喋っている途中で言葉が切れ、再び話だしたかと思うと、どこか別の誰かと会話している。そして、話終えると共に、
「ごめんね。あんた達を皆殺しにしたいのだけれど、急用が入ったからまた今度にしてあげる。そして、頼飛様。またいずれお迎えに参ります。それまで、どうか、お元気で」
最後にそう言うと、俺に笑いかけ、一礼した。そして、次に翼を大きくはためかせ、その場から文字通り掻き消えた。
「ちっ!まだその辺にいるかもしれん!!!早く探し出せ!!」
と、エレイン王が叫び複数の悪魔達が探しに行った。
あれが、じぃちゃんが言ってた天使か。悪魔達と違って純白の翼のせいか、神々しい感じがしたな。っていうか天使がどうして俺を?まったく見覚えがない。次から次へと、謎が深まる。だが、そんなことよりだ!いなくなった奴の事を考えても今更だ。早くルミアを!!
「ルミア!!今行く!あと少し待ってろ」
ルミアの名前を叫び、さっきの天使が現れたことで舞台の上に上がって来ていた。エレイン王の元へ近づく。
「なんだ?まだ諦めてないのか」
「当たり前だ」
「そんなに、ルミアのことが大切なのか?」
「あぁ。大切に決まっているだろうが!」
「そうか。ならば、ルミアの隣にいるのが相応しいかどうか見極めてやる。来い!!」
そして、最終戦が行われる。
この世界の神になる物語 りっくん @rikkun
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