第11話
寝起きの事件から体が痛い俺は、不機嫌で、武闘会場まで歩いていた。もちろんその横には、ルミアも一緒だ。
「なによっ。まだ痛いの?情けないわね!あのくらいでー」
「あのくらいって‥痛いものは痛いんだ!」
あの後、ルミアは俺に謝ってくれたのだが、俺の機嫌が戻らないため、開き直っていた。
そんなやり取りをしていると、すぐに着いた。そこは、昨日までのだだっ広い荒地ではなく、中央には約200m四方の大きい武舞台が用意されていて、朝からもう多くの悪魔たちで賑わっていた。
「おぉ。昨日とは全然違うな」
「当たり前よ!ここからが本当の勝負なんだから」
そこで、昨日の受付のおっさんが武舞台の上から、
「これから!第2予選を始める!昨日残った奴はさっさと来い!」
どこまでも届くような、どでかい声がビリビリと聞こえてきた。そうすると、武舞台の上にぞろぞろと100人の第2予選出場者が集まって来た。
「よーっし!集まったな!毎度の事だが、一応ルール説明だ。この第2予選では20人ごとに分けてこの武舞台で順に闘ってもらう。それで、その20人の中で最後まで武舞台の上で立ってた1人が本戦へ行ける!わかったか?簡単だろ?」
悪魔達は口々におー!と気合を入れている。本当に純粋な力比べって感じがして悪魔達のこういう所は、俺は好きだと、思いながら俺も気合を入れ直す。
「さて、早速だがこれから第1試合を始める。名前を呼ばれなかった奴はさっさと、武舞台から降りろよー」
そこで、俺は初っ端から名前を呼ばれ、武舞台の上に残る。横に居たルミアは名前を呼ばれなかったため、武舞台を降りていく際に、
「絶対負けないでよね!頼飛とは本戦で戦いたいから」
そう言い残して行った。
「俺が、負けるわけないだろうが!」
俺は、聞こえていないだろうがそう答え、武舞台の正面を向いた。そこには、俺よりも背がずいぶん高く。それでいて、屈強な身体付きをした悪魔達が待っていて、俺も拳に力を込め、試合開始を構えて待つ。
そして、とうとう試合のゴングが鳴り響いた。
それと同時に俺に悪魔達が掛かってくると思いきや、俺を除け者にして、俺の前で、殴りあっている。
「えっ!?なんで俺にかかって来ないんだよ」
その気になっていた俺は、気合を削がれ呆然としていると、いつの間にか20人居たのが、もう5人ほどしか残っていなかった。
「お‥俺も!混ぜろよ!」
ようやく飛び出した俺は、とにかく1番手前にいた奴の首根っこを掴み勢いに任せてそのまま地面に顔面から叩きつけた。悪魔は、白目を向きもう動かない。そして、ギロッと、残りの4人に目を向ける。そうすると、蛇に睨まれた蛙のようにビクッと固まって動かなくなった。
「おいおい。もう終わりか?」
そして、悪魔達は全員揃って‥‥
「はい!!!降参します!!!!」
強面揃いのでかい悪魔達は頭を深々と下げた。
「えっ嘘だろ?なんでだよ!?」
「いやっだって死にたくないし‥」
と、口々に同じようなことを言って、武舞台から降りていった。絶句していると、俺の腕を、上がってきたおっさんが掴み上げ、
「第一試合目は、この神前頼飛が本戦出場だ!」
俺の本戦出場が決まり、なんだか物足りない気分で武舞台を降りると
ルミアがいた。
「おめでとー。頼飛」
「ありがとう。腰抜けばっかりだった」
ルミアはため息をついて、
「当たり前よ。昨日派手にやらかしちゃったんだから。」
むぐっと、言葉に詰まる俺。確かに昨日は我を忘れてしまってやらかしてしまったとは思うが、俺の想像では悪魔達は負けるとわかっていても、もっと熱くなって掛かってきてくれるものだと思っていたのだ。
「結局、人間も悪魔も大して変わらないんだな」
「ん?人間?頼飛、人間を知っているの?」
「いやっ!なんでもない」
危ない危ない。あまり不用意な発言は控えないとな。首を傾げていたルミアは、何も無かった様にすぐに次の試合が始まるゴングと共に前を向いた。
俺も武舞台の方へ目をやると、そこには、豪快な戦い方をしている受付のおっさんがいた。
「はっはっは。甘いぞ小僧共!老いぼれてもまだまだ負けん!」
実に楽しそうに戦っている。
「なぁ。ルミア、あのおっさん受付の係の人じゃないのか?」
「まぁ。そういう運営をしてくれてるけど、あの人ライモンって言うんだけど、あたしの前の王様だった人よ!このくらい知っときなさいよ!まったく‥」
「えっ!?そうだったのか‥」
呆れるルミアを尻目に、俺はあーいうのと闘ってみたいと思った。
そして、第2試合は受付のおっさん改め、ライモンが勝ち本戦出場を決め、
第3、第4、と決まり、いよいよ最後の第5戦でルミアが戦う番が来た。
「よしっ。やっと出番ね!」
軽々と武舞台に飛び乗るルミアに俺は、
「頑張れよ!」
「余裕よ!あたしがこんな所で負ける訳ないじゃない!」
そう言い残して、スタスタと中央まで行ってしまう。
そして、第5戦が始まると同時にルミアが舞う。まるで宙を舞う蝶の様に、美しく。華麗に、自由自在に飛び回る。さらに、全て一撃で仕留めている。思わず見入ってしまっていると、いつの間にかルミア以外立っているものは誰も居なくなっていた。
「凄いな」
つい、感嘆の声をもらしてしまうと、すぐ左隣から男の声が聞こえた。
「当然だ!あれでも元、王の座に居たのだからな」
俺のすぐ横に居たのは、昨日城前で見たエレイン王だった。
「なぜここに?」
俺の質問に答えるよりも早く、ルミアが俺とエレイン王が一緒に居る事に気づき、走って割り込んできた。
「なんで頼飛と一緒にいるのよっ!エレイン!」
エレイン王に掴みかかるルミアに対してエレイン王は、
「なんでって、お前と1晩を共にしたこの男に少し話があってな」
何食わぬ顔でそう言うと、顔を真っ赤にしていくルミアが、
「なっなんであんたがそれを知ってるのよっ!」
と、問い詰めると、
「ふんっ。俺の情報網をなめるな」
ドヤ顔でそう言うエレイン王。それに、今にも殴り掛かりそうになっているルミアを俺は引き剥がす。
「おいおい。落ち着けよ。ルミア」
それでも、暴れようとしているルミアを見てエレイン王は、
「はぁ。まったく。少しは大人しくできないのかルミアよ」
ため息をついて、呆れるように頭を抱える。
「うるさいわね!どうしようとあたしの勝手じゃない!」
「はぁー。それで?この男とはどういう関係なんだ?」
「頼飛とは‥‥そう!あっあたしの恋人よ!なんか文句でもあるの!?」
固まるエレイン王、と俺も絶句してしまう。だが、すぐにエレイン王は、ルミアの腕を掴むと、
「恋人だと!?何を言っている!それは許さないぞルミア!早く俺の所へ戻って来い!これは命令だぞ!」
俺から離れさそうと、強引に引っ張る。
「痛いっ!離せ!このっ!!」
そこで、見兼ねた俺は、ルミアの腕を引っ張っている手を掴み、力を入れて引き剥がす。
「何がどうなっているのかわからないが、とりあえず離せ!嫌がってるだろうが」
一瞬驚いた顔を見せたエレイン王だったが俺の手を振り払うと、
「お前も許さないぞ!覚えておけ!」
一言言い残して、人ごみの中へ消えていった。
「えっと、とりあえず本戦は昼からなんだろ?俺、腹減ったし、飯食おうぜ」
「うん。そうしよ」
頷いたルミアは俺の手を引いて歩き、ルミアの家まで戻ってきた。
リビングに入り、俺がテーブルに着くと、ルミアはもう用意していたのか大きめのバスケットを持って来た。
「朝持っていこうと思ったんだけど忘れちゃったのよね。せっかくだし、庭で食べよー」
庭の真ん中にシートを敷いてその上に座り、ルミアが持ってきたバスケットを開けると、中には、美味しそうなサンドイッチがいっぱいあった。
「おぉ。これも美味そうだな!じゃあ早速、いただきます」
「あたしが作ったんだから不味いわけが無いじゃない。ゆっくり食べて。いっぱいあるから」
ルミアもコップに飲み物を注ぎ、俺の前へ置いてから自分も1つ取って食べ始める。少しの沈黙が続いた後、ルミアが、
「何も聞かないの?巻き込んじゃったのに‥‥」
恐る恐る聞いてくるルミアに、
「驚きはしたが、ルミアが話したくないのなら別に話さなくても良い‥あっ!でも、エレイン王とはどういう関係なのかは知らないが、ちゃんと訂正はしておけよ。その‥恋人にはなってないだろ?俺達は」
「うん‥そうね。わかった」
まぁ人には話したくないの事の一つや二つぐらいあるものだし、俺も例外じゃない。それに、大方、許嫁とかいろいろ予想は着くしな。これ以上何も俺からは聞かない事にした。
それから、ほとんど会話もなく昼飯を食べ終えてから、俺達はまた本戦会場へ戻った。
さっきまでより盛り上げを見せている。会場では、もう既に、今の王、エレイン王を含め残りの本戦出場者が武舞台の上に揃っていた。
「よしっ。これで全員揃ったな。そろそろ本戦始めるとするか!」
ライモンがそう言うと、周りからさらに、歓声が大きくなる。
「こっからはトーナメント形式で戦う。順番はさっきの予選をした順番通りに第1試合目は頼飛と俺、というふうに戦っていってもらう。それで、3試合目のルミア様は、エレイン様と戦ってもらう。異論はないな?よしっ!じゃあ俺と、頼飛以外は皆、場外へ出てくれ」
いよいよ本戦か!絶対勝ち抜いてやる!そう意気込んでいると、ルミアが
「頑張って!」
と、耳元で言うと、どういう理由か、俺の頬にキスをして、赤くなりながら場外へ逃げるように走っていった。
「ふぅー。熱いねー」
と、ライモンが茶化して来る中、1人怒りの形相を浮かべたエレイン王に、
「貴様ー!ぶっ殺す!!」
睨みつけられる。そして、身を翻して場外へ降りていく。
怖っ!今の俺、絶対怒られる事無いだろ!?ルミアからしてきたのに!
そんなこんなで、試合前の大事な緊張感を失われてから、試合を始める事となってしまった俺であった。
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