第6話

 半覚醒状態の中。目の前に天世の寝顔がある。そして、後頭部には柔らかい

枕がある。それを、手で触ってみると、程よい弾力で

すべすべ、むっちりしている。

 そう‥これは膝枕である!そこで俺は完全に目が覚めた。

薄らと天世の目が開いていていき、しょぼしょぼと何回かまばたき

をすると、状況がだんだん把握してきたのか、夕焼け空の様にだんだん

顔が赤くなっていく。

「えっと‥これは‥その‥ねっ寝違えたら悪いと思って‥」

「あっあぁ。ありがとう‥」

 この少しの沈黙が妙に恥ずかしくも心地よかったが、流石にこのまま

では駄目だから、俺は体を起こし、周りを見回す‥‥西空には夕日が‥

えっ!?夕方?

「やってしまった」

 まさかあのまま本気で寝てしまうとは。

「ごめんなさい!私もいつの間にか寝ちゃってたみたいで‥」

 俺は腰を反りながら伸びをし、

「まぁ。もう過ぎたことだしいいよ。いやー。よく寝た。どうせ授業に

出ても寝てるだろうし、俺は丁度良かったよ。」

「ごめんなさい‥」

 それでも謝る天世の頭をポンポンと撫でた。

「良いって、マジ寝した俺も悪いし、そんな事よりも早く帰るぞ」

「うん!」

 屋上から教室へ戻る最中俺はある事に気づいた。それは不自然に

静かだということだ。スマホで見た時刻は4時半頃、この時間なら運動部の

声が聞こえてきてもまだおかしい時間じゃない。

「なぁ。なんか静かすぎないか?」

「そう‥かな?」

 俺だけなのか?と疑問に思いながら、教室のドアを開けようとしたが、開かない。

「あれ?おかしいな」

「どうしたの?」

「ドアがな、開かないっんだよ!」

 俺は無理矢理に、力を入れて一気に押し開けた。

「なっ‥なんだよ‥これ?」

 そこには、至るところにクラスメイトの死体と、血がこびれついていて、

血のなんとも言えない生臭い匂いが、立ち込めていた。

「ひっ‥!!えっ!?」

「もう!見るな!!」

 そう言って、俺は天世の目を隠し、一旦離れさせる。どうなってるだ?

昼の時点では、いつもの日常だったじゃないか!

「と‥とりあえず警察に電話を‥」

 俺は、スマホを取り出すと、「110」を押して耳に当てた時、遠くの

方から数人の悲鳴が聞こえた。

「おいっ!今の‥聞こえたか?」

「うっうん‥たぶん、体育館の方だよ‥」

「行ってみるぞ!1人の方が危ないから天世!俺のそばから離れるなよ!」

「はい!!」

 そして、俺達はすぐ近くの階段を駆け下りて、全力で体育館へ向かう。

 体育館に着き、中には、代智と他の数人の男子生徒達が、人間ではない、

何かに襲われていた!それは、体長がゆうに2mは超え、屈強な身体

つきで、さらには、頭に2本の角が生えていた。

そう。それはまるで、じいちゃんの昔話に出てきた。3種族の1つ

であった。

「代智ー!」

 叫んだ俺に、代智は気付き、

「逃げろー!頼飛!!」

 馬鹿野郎!親友が怪物に襲われてるって状況で、逃げれる訳ないだろうが!

俺は、近くに落ちてあったバスケットボールを掴み、俺の方へ気を向かせる

様に投げつけた。それが、うまい具合に頭に当たり、悪魔がこっちを振り向いた。

「痛てぇな!あぁぁん!」

 喋った!!ボールを当てられた悪魔が、すぐ近くの腰が抜けていて立てていない

男子生徒の頭を鷲掴みにし、こっちの方へ投げ飛ばしてくる!

「ぐぁわぁぁっ!!」

 飛んでくるのを、避けることもできず、ぶつかって、踏ん張るが流石に、

受け止め切れる訳もなく、そのまま壁に背中からぶつかる。

くぅぅー。痛い!痛いどころじゃないな。どっか折れてる!

「頼飛君!!」

 そこで、天世が駆け寄ってくるが、悪魔もこっちへ音が鳴るほどドシドシと

走ってくる!

「来るな!!ちっ!くっそ!」

 どうにか俺が、クッションになったおかげか、男子は生きているが、こっちへ

向かって来る奴をどうにかしなければどちみち俺も死んでしまう。

その時、今度は代智がボールを拾って悪魔に当てた。

「この!化物がぁー!あいつらみたいにエサになってたまるかよ!!」

 そして、そのまま代智はどこからか持ってきた。鉄パイプを上段に構え、

悪魔目掛けて飛びかかって行く。それに気づいた悪魔は、

そのまま飛び込んできて、思いっきり振り下ろされる鉄パイプを

難なく片手で受け止め、代智を殴り飛ばした。

「ひゃっひゃっひゃっ。弱い!弱いなぁ。人間はぁー」

 再び代智に近付いた悪魔は、意識がモウロウとする代智の右腕を持ち、身体ごと

持ち上げる。

「くそがぁぁ!」

 効くわけが無いとわかっていながらも、痛みを感じながらどうにか

辿りつき、全体重を掛けた拳をぶつける。だが、やはり効いている素振りを

見せない。

「あぁ?大人しく待ってろよぉー。こいつの後にすぐ食ってやるからよぉ」

 悪魔は、そう言ったと思うと、空いている左拳で、俺を殴り飛ばす。

「くっ‥あぁぁぁ!」

 俺は吹っ飛び、たまらず肺に溜まった空気を吐き出すと、吐血する。

「俺は、親友1人、助けることもできないのかよ!」

 そして、悪魔が代智の左肩から食いちぎった。

「ぐっがぁぁああ!」

「ひゃっひゃひゃひゃ。もっと鳴けっ!もっと鳴けっ。次は

足から行くかぁ?」

 そこで、たまらず俺は、

「やめろーー!!やめてくれぇ!頼むから‥やめてくれぇ」

 そう懇願こんがんするが、悪魔は聞いちゃいない。すると、代智が激痛に

顔を歪めながら、俺の方を見て、

「に‥げろ。ら‥いと」

 俺に!力が!もっと力があれば!!

『力ならあるぞ。少年!』

 どこからともなく、どこか懐かしくも聞こえる声で俺に話しかけて来る。

「どこに‥どこにそんな力があるんだよ!」

『君は‥私の‥力を受け継いだ。ただ1人の人間だ。再び世界が1つになってしまった

今、君のその何かを守りたいと思う心が、鍵となっていくらでも力を引き出すこと

ができるだろう。さぁ。立て!全てを守り抜くために!神の座を掴み取るために!!』

力が溢れて来る。そして、いつの間にか傷も完全に癒えていた。

俺は、悪魔に近寄ると代智を掴んでいた腕を握ると、一気に力を入れる。

その途端、さっきまでいくら殴っても効かなかったのに、今度は簡単に、握り

潰せた。

「ん?痛てぇぇぇ!」

 と、悪魔は腕を抱えながらしゃがみこむ。その横に、崩れ落ちた代智を抱える。

良かった。まだ息はある。それに安心して、俺は代智の無くなった腕に手をかざ

し、治すイメージをする。そうすると、光が集まって来たかと思うと、まるで何

もなかったかの様に、腕が形成された。それを確かめたあと、一瞬で天世の隣へ

移動した。

「天世。今から警察と、救急車を呼んでくれ」

「えっ!?頼飛君。今どうやって‥」

「頼んだ。俺は、あいつを片づける。それと、ここから先は見るな。

気持ち悪くなるぞ」

 そしてまた、悪魔のすぐ近くまで近寄る。

「てめぇも悪魔だったのかよっ!そんな力。人間じゃありえねぇ!」

 そう言って、俺から一旦距離を置く。

「知るかよ!でもぜったい!お前らの仲間なんかじゃねぇよ!殺してやる」

 俺は、離れた距離を一気につめ、右拳で、悪魔の胸部を殴ると、面白いように

吹っ飛び、壁にぶつかる悪魔に、追い打ちをかけるため、さらに、倒れる前に

悪魔の顎を、思いっきり蹴りあげる。そして、上に飛んだ悪魔が落ちてきた時に

首を掴む。そのまま俺は、悪魔が代智にした様に、左腕を、食いちぎるのは流石

にためらい、肩を掴むと力を入れ、引きちぎった。

「ぐわぁぁぁああ!!痛い!痛てぇ!」

「まだ喚くか。化物が」

 いい加減飽きてきた俺は、悪魔の首をへし折り。動かなくなった所で、壁に

穴が開くほど、吹っ飛ばした。

 丁度その頃、パトカーと救急車のサイレンが聞こえてきた。

「遅いぞ。まったく‥‥」

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