2、 異邦人
「はぁ、困ったなぁ…」
木陰で休んでいた桃太郎は、大きな溜息をついた。
鬼ヶ島から帰ってからというもの、どうすることもできずにこうして途方にくれていた。鬼退治を成功させるまで村には帰れない。
村からちょっと離れたところにある家は、おじいさんとおばあさんが住んでいた名残がある。二人とも、去年の暮れに亡くなった。もう70は越していたし、いつかこうなるとは思っていたが、唯一の家族を失うのはやはり辛い。
おばあさんお得意の吉備団子を自分で作ってみたりもしたが、なにか違う気がする。そのせいなのか、猿や雉や犬でさえも仲間になってくれない。なったとしても、全く協力的じゃない。自分をおいてすぐに逃げてしまう。
人に協力を求めることはできないし、結局最後には一人で戦うことになるのだ。
信頼できる仲間…か。そんなもの、できるだろうか。
今回で7回目だ。毎回毎回、猿と雉と犬を家来にして鬼ヶ島へいくが、皆鬼を前にして逃げていく。まぁ動物なのだし、要は吉備団子で餌付けしただけなので、信頼もなにもあったもんじゃないのは、十分わかっているのだが。
「僕はいっつも一人だな」
頼れる人もいないこんな状況で、あの鬼に勝てる日はくるのだろうか。
…なんだか一生無理な気がしてきた。
じわっと胸が痛む。孤独感というやつか。
「一人じゃ生きていけないよ…」
たまらず天を仰ぐ。真っ青な空に、所々白い雲が浮いていた。固く目をつむって、首を振った。弱音を吐くとまいってしまいそうだ。
刀の素振りでもしようと思い、立ち上がった時、すぐ近くで声がした。
「おおっ!すごいなぁ。オレの故郷と全然違う!」
気になってそちらを見てみると、そこには不思議な恰好をした小柄な少年が立っていた。頭には長い布のようなものを巻いていて、きらびやかな服を着ていた。
「さぁて、なにするかな…ん?」
相手はこちらに気づいたようだ。そして、こっちに歩み寄ってきた。
間近でみると、整った顔立ちの、なかなかの美男子だ。
「なぁ、あんた。ここらに住んでるのか?」
高めの声色で、背は自分より少し低いが、自信のありそうな顔つきだ。
「はい、そうですけど…」
「なら丁度いい。あんた、時間ある?」
時間なら有り余るくらいあるが。沈黙をなぜか肯定と受け取ったらしい相手の少年は、続けて言った。
「ここら辺のこと、いろいろ教えてくれないか?食べ物とか、動植物とか、どんな人が住んでるのか、とか!」
少年は目を輝かせて言った。なんというか、とても楽しそうだ。
「えっ、ここの事?どういうことですか?あなたは一体…?」
ああ、そうだそうだと言って、少年は言う。
「オレはアラジン。ここからずっと遠い所から来たんだ」
アラジンとは、また変わった名前だ。だが、遠い所と言っているし、そこでは結構普通の名なのかもしれない。
「遠い所?海の向こうとかですか?」
「海?あー、うん。まぁそういうことになるかもな。それより、あんた名前は?」
ああそうだった。名乗るのを忘れていた。
「僕は桃太郎です」
「モモタロー?変わった名前…あ、もしかしてここら辺では普通の名前だったり?」
変わった名というのなら、こっちではアラジンの方が変わった名前なのだが。
「良く知りませんけど、太郎ってなまえの人は多いみたいですよ」
自分の村にも数人いた気がする…覚えていないが。
「ふーん。まぁ名前の事はこれくらいにして、それで、ここの事、教えてくれるのか?」
「はい、まぁ構いませんが」
こうして桃太郎とアラジンは、しばらく話をすることになった。
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