桃のランプと豆の猫
流川あずは
1、 青い桃
ガキィィン!!
金属どうしが激しくぶつかり合う音が、あたりに響きわたる。片方は金棒、もう片方はすらりと長い刀だ。
ぎりぎりと間合いを詰め、遂に片方が相手を押し出した。
「うわっっ」
どしんとした衝撃をまともに受けて、無様にしりもちをついた。荒い息が肩を上下させる。
「まだまだだな、小僧」
金棒を地面に突き立て、仁王立ちで上から視線を送ってくる。恐ろしげな顔をしている。見下されているような気がした。
「そんなことでは一生俺を倒すことなどできはしないぞ。現にお前の仲間など、お前をおいて逃げたではないか」
仲間、というところを、半ば馬鹿にしたような響きで言う。
「薄情な家来たちよなぁ」
悔しいが、その通りだった。何も言い返せない。
「今のお前に必要なのは、もっと信頼できる仲間なのではないか?最も、それが一番難しいのだろうがな」
相手はそう言い捨てて背を向けた。巨体に金棒を担ぎ、どしんどしんと遠ざかっていく。後ろから不意打ちされることを、心配すらしていないようだった。
「待て!!」
足にぐっと力を込めて立ち上がる。刀を両手でしっかりと握った。
「まだ戦える…まだ…」
「やめておけ」
振り返りもせずに、相手は言った。
「出直せ。今続けても傷を負うだけだ。…いつでも相手はしてやる。」
その時、すこしの間だけ振り返っていった。
「桃太郎」
桃太郎は、鬼の大きくて真っ赤な背中を、くやしさとみじめさを含んだ瞳で見つめることしかできなかった。
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