第5話
ご機嫌な女の手は止まらない。シャツのボタンをすべて外し、中に着ていたシャツをめくり上げた後、ズボンのベルトを外しにかかった。その時眠っていた男が目を覚まして上に乗っている女を見て
ヒイイイッ!
と声にならないような悲鳴を上げた。
女の下で男は必至に逃げようとしているが、女の逞しすぎる太ももにがっちり挟まれて抜け出すことができない。女は足で男の体を挟みつつ、ベルトを抜き取ってベッドの下に落とした。そしてズボンのボタンを外してチャックを下ろしたところで男が背中を炙られた海老のように何かを叫びながら何度も上半身を持ち上げて女から脱出しようとした。女はその男の顔にビンタを食らわせた。
男の声で騒がしかった部屋の中が一瞬静まり返った。呆気にとられ、上半身を起こしたまま微動だにいない男にもう一発強烈なビンタを食らわせて男の上半身をベッドに倒した。男は急に激しく動いたからか、精神的ショックのためか、仰向けの状態でいきなり噴水のように激しく嘔吐した。吐いた物は男の顔面を覆い、苦しそうに咳き込んでいたが女は気にすることなく男からズボンと下着を剥ぎ取り、心底嬉しそうにイカれた笑い声をあげて男の下半身に顔を埋めた。
女に貪られている間、男は獣のような叫び声と涙声で言葉になっていない日本語を垂れ流し続けていた。
見ている俺まで気が狂いそうだった。こんな地獄絵図はきっと今日だけでは終わらないのだろう。恐らく女が妊娠するまで続けられるに違いない。それまで俺は何回こんな場面を見続けなければならないのか。
そんなことを考えていたら一気に疲労感が襲いかかってきた。今までの女の姿や言動が俺の中でグルグルと思い出されて目が回りそうだった。自分の過去も未来も抱えられなくなった俺はもう女の前から消えることに決めた。俺が消えたら別の奴がこの部屋に来て惨劇を見せつけられるのだろう。気の毒だが、それも運命だと思って受け入れてもらうしかない。
まだ男の叫び声と女の荒い息遣いは続いている。その最中に俺は自分で自分を壊した。プツッ、という音と共に現実とは比べ物にならないほど美しい暗闇の中に溶け込んだ。
Drop out 千秋静 @chiaki-s
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