第3話

 男と会う当日、女は買ったばかりのフリフリのワンピースに体をねじ込んで必死になってチャックを上げようとしていた。なかなか上がらないチャックと格闘している女を忌々しく睨んでいると俺はあることに気付いた。普段めちゃくちゃに散らかっている部屋が少し片付けられているのだ。


 玄関から続いている普段は足の踏み場もない廊下は物が退かされてちゃんと通り道ができている。汚いぬいぐるみが転がり、ぐちゃぐちゃのシーツが捲れ上がっていたベッドはシーツが敷きなおされた状態で整えられていた。可哀想に、ぬいぐるみたちは転がされたままベッドに放っておかれていた。


 朝起きて、俺の電源を入れる前に片付けたのだろうか。こんなことは俺がこの家に来て初めてのことだった。また嫌な予感がしてきた。まさかこの女は今日会う予定の男をこの部屋に連れ込むつもりなのか?

 

 男を食っちまうための整理整頓・・・。既成事実でも作って本気で結婚しようというのだろうか。そうだとしたら女というか人としてどうかしている。こいつは本当のモンスターだったんだ。


 電源が入っている間は逃げ出すどころか目を逸らすことすらできない自分の存在を恨んだ。もうこの女を見るのはうんざりだった。


 俺のことなど視界に入っていなさそうな女はパツパツな服を着て、汚れたサンダルをつっかけてニタニタ笑いながら出ていった。アパートの階段をドスドスと降りていく音が部屋にまで響いた。俺は電源を落とされることなく、目を開けたまま女の帰りを待つことになった。


 どうか一人で帰って来てくれと願いながらベッドの上で汚れてくたくたになっているぬいぐるみたちを眺めていた。


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