03
〇
そこから私の独壇場でした。
本領発揮でした。相手が魔物でないというのなら襲るるに足らず。
私は街並みを歩きながら、男女問わず片っ端から声を掛けていきました。
「やあどうもこんにちは。魔女です」
「お。きみ結構可愛い仮装して――」
「お菓子」
「……ん?」
「お菓子ください」
「お決まりの文句が聞こえないが……?」男はでっかいかぼちゃを頭に被っていました。「しかしだな、俺の仮装のほうがイケてると思わな――」
「お菓子」
「……おお?」
「お菓子ください」
「いや、あの……」
私は手に持っていた杖を男の喉元に突き付け、
「いいからお菓子」「プリーズお菓子」「くださいな」「はやくお菓子」「くれないとどうなるか……分かりますね?」「ちなみに私」「私は本物の魔女です」「言ってる意味は」「分かりますね?」
ぐいぐい迫り、男の周囲をぐるぐる回りながらお菓子を要求しました。
「……いや、でも」
それでも私にお菓子を与えようとしないけちな男の耳元で、私は魔法を放ちます。氷の塊が男の耳元ではじけます。
「ちなみに私の悪戯はこのレベルですけど――どうですか? 悪戯されたいですか?」
そして私は、男の肩にぽん、と手を置き。
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃいますよ? どちらが良いですか? うふふ」
このあと滅茶苦茶稼ぎました。
さて所持金(キャンディ)が入国当初に戻ったところで、私は国を離れることにしました。
私とほぼ同じタイミングで、リサさんも国を離れたようで、門の外で彼女とばったり遭遇しました。
「あら。さっきぶりね。どう? 稼げた?」
「いえ、でもとりあえず所持金が入国時と同等くらいまでにはなりました」
「ふうん――ちなみに私の稼ぎ、見る?」
「……こんなに稼いだんですか」
大量の金貨が彼女の財布の中には収められていました。なんですかこれ一般市民の年収くらいありますよ凄い。
「男はちょろいもの。胸を露出させとけばだいたいなんとかなるわ」
「……………………………………………………………………………………………………そですね」
「あ、ごめん」
彼女は私の胸元に視線を落として「てへっ☆」といった感じに自らの頭をこつんと叩きました。
私は彼女の脳天に氷塊を落としたくなる気持ちを抑えてから、
「というより、これ、つまり露出が高かったり強引な手法を使った人が得をする行事ですよね。あの国の人に利点はあるんですか」
「あるわよ」
「何ですか」
「可愛い女の子と気軽におしゃべりできる。可愛い女の子に悪戯してもらえる」
「…………男って」
「皆ちょろいわよ」
「……………………」
しかしながら。
私は今回の国に関して腑に落ちない点が一つあるのです。
彼女のいうことが本当だとしても、いくらなんでも街に蔓延る魔物っぽい格好をしている人たちの仮装の出来栄えはすさまじかったのです。
まるで本物の魔物と見まがえるほど。
取り囲まれた私はうっかり怯えてしまうほどに。
「…………」
もしかしたら。
本当は仮装などではなく、魔物たちが寄せ集まり住んでいる国だったり。
年に一度、人間たちと関わり合いを持つために開いている祭だとか。
そんな可能性ばかり考えてしまう私なのでした。
なんちゃって。
まさかそんなことあるわけないですよね?
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