捨て王子改造計画
パラダイスに王子を残して出勤したまでは、まあ良かった。
この家は共同生活のような感じなんで、騒がず大人しくしておいて下さいねって念を押して、良く映画とかで異世界とかタイムスリップして来た人が、テレビでお勉強してるのを思い出したから、テレビのリモコンを王子に手渡した。王子は不思議そうにリモコンを眺めていたけど、使い方はもちろん、教えなかった。
だってさ、私が出掛けた後にボタンを押した拍子にテレビが点いちゃって、映画の中の子みたいに王子(笑)が怖がってたりしてたら、ちょっと可愛いかなって思ってさ。それに、捨て王子も王子名乗ってるくらいなんだし、リモコンの使い方くらいすぐにマスターして、色々な番組を見まくってくれるだろうと思って。
王子が一生懸命にテレビを見る姿を想像して、微笑ましく思いながら、出勤した。きっと私が家に帰宅した折には、テレビで知識を得た新生王子は、これまでの無礼を謝り伏せる事だろう。そうしたら、パラダイスを穢されたことも、ちんぴーらさんにご心配をお掛けしてしまったことも、水に流してやろうじゃないか。
電車の中でむふふと気持ち悪い笑い方をしていたら、サラリーマンらしきおっさんから不審者を見るような目を向けられた。うるせえな、こちとらも生きてるんだから笑いたくなる事だってあるっつーの。
いつも通りの会社での火曜日。いや、営業さんが美味しいコロッケパンを買ってきてくれて、皆でお昼に食べた、ちょっとついてる火曜日を過ごし、いつも通りに帰りつきました。
可愛くなった捨て王子のために、ちょいと土産物でも買いますかとコンビニに立ち寄り、適当にグミを買うことも忘れなかった。テレビで観たグミを実際に食べることが出来て、子供みたいにはしゃぐ王子ね.....悪くないんじゃない?
そんな想像をしてしまったのが、そもそもの間違いだった。
帰宅後、ドアを開けてすぐに目に飛び込んできたのは、上半身裸でリモコンで素ぶりする王子の姿だった。
ひゅんっひゅんって音を立てながら、リモコンを剣のように振るう王子。思わず二度見した。
「あ、お帰りなさいませ。変わった魔道具ですが、こいつのことが、少しだけ分かってきたような気がします」
安心しろ、気がするだけだ。汗を額から拭う王子に爽やかに笑いかけられたけど、なんだろう? 殺意しかわかないぞ。
その後? 普通にテレビ観て、飯食って早く寝ましたよ。王子が何だかわーわー言ってたけど、人のパラダイスで風呂入れさせて貰って飯食わせて貰ってんのに、奴は何が不満なんですかね? ぺっ。
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