銀河の隅で
地球に来て数年、ボクが身体を借りている地球人が、ボクに語りかけてきた。
「このメール、君に何か関係あるの?」
彼の視覚を借りてそのメールとやらを確認する、どこかで見た事のあるような文面だ。
『コンニチハ、☆のひと!きみたちにすてきな“しゅうまつ”がおとずれますように』
まるでこの星の外から語りかけてるような、そんな文面だ、だがボクの星ではこんな妙な言い回しはあまりしない。
「知らないよ、それにこの文面、地球に来てからどこかで見た気がする」
彼の言葉を借りて答える、彼は眉間にシワを寄せて考え込んでしまった。
「あっ」
彼の考えが、ボクにも同時に流れ込んでくる。
「ささくれP……じゃあこのメールは終末を予言するメールとでも?」
ボクの問いに、彼は深く息を吐いて黙り込んでしまう。
「君のような宇宙人が確かに存在したんだ、しゅうまつの到来を教えてくれる何かの存在がいてもおかしくないと思わないか?」
それは困る、地球に終末が訪れたらボクがこの星を侵略しに来た意味が無くなる。
「はは、侵略されるのも困ったもんだけどね」
彼はボクが侵略という言葉を出すたびにそう言って笑う、ボクの身勝手に巻き込んだからには、この星を侵略することになろうが、この星に終末が訪れようが、彼だけには無事でいてもらいたいものだ。
「とは言っても、終末なんて実感湧かないよね」
あの人のこの言葉が語られた歌の中の人たちもそうだった。
「まあ確かに」
彼はパソコンの画面を切り替えて、それを睨みながらサイダーを飲む、シュワシュワと音を立てて炭酸が喉を刺激した。
「終末よりも先に、この曲が完成すれば僕はそれでいいや」
サビがどうしてもしっくりこない、未完成の曲をじっと見つめる、ボクも、この曲の完成は見届けたいと思っていたところだ。
「さぁ、続きをやるか……」
中身が残り半分となったペットボトルを置いて、作業に戻ろうとした時だった。
『HAL-replica』
突如画面に表示された、特徴的なシンボルマークとその下に書かれた文字を見て、直感的に危険を察知する。
モニターのスイッチに手を伸ばすが、それでも遅かったらしく、彼の手がピタリと止まった。
彼の意識が消えていくのを感じ取る、いや、深く深く眠っていくときの感覚に似ている。
「レプリカはレプリカか……やはりオリジナルと同等の威力は無理ということだな」
後ろから声がする、しかし身体が硬直しているため、その姿は確認できない。
「異能対策部だ、君に異能の発現を確認したため、君を拘束する」
「異能……?」
ゲームでいうところの「操作権」ってやつが、地球人の身体にもある、彼の意識が無かったため彼の身体を動かし始めるのに少し時間がかかったが、やっと口を動かせるぐらいにはなった。
「なぜ動ける、電子ドラッグが効いてないのか?」
「電子ドラッグが何なのかはわからないけど、ボクは地球人とは少し仕組みが違うからね、この人には効いてもボクには効かないと思うよ……」
まだ慣れてない身体を動かし、ゆっくりと後ろを振り向く、銃を持った連中が部屋の壁際にズラリと並び、こちらを囲むように銃口を向けている。
「一般人にこれは酷いんじゃないかな」
打開策はないか、必死に模索する。
ズルリと椅子から落ち、思いっきり机へと腕をぶつけてしまった、ペットボトルが倒れる音と同時に、連中の中の1人がビクリと反応し、引き金に指をかける。
司令官らしき男の制止も間に合わず、銃声が響く、世界のすべてが止まる錯覚に陥り、ボクは死を覚悟した。
ドスンと重たい衝撃が走り、ボクに飛来するはずだった銃弾はボクの後方でモニターを破壊した。
目の前の隊員の1人が、呻き声を上げて倒れ、その側にサイダーのペットボトルが転がった。
「……異能だ、やはり発現していたか」
ガチャガチャと音を立てて、連中が臨戦態勢に入った。
「『僕』を……傷つけるな!」
ドガンと音を立てて爆ぜる冷蔵庫、その直線上に突風が巻き起こり対角の壁が瓦礫を撒き散らした。
何が起こったか把握できずにいる僕の前で、立ち込めた土煙の向こうからいくつもの火花と発砲音が散った。
こちらに向けられたはずの銃口から来るはずだった銃弾は、またもやこちらには届かなかった。
目の前には、点と点を繋いだ模様の光る壁が広がる。
そして、黒い服を着た男がこちらに手を差し伸べている、見知らぬ男だが、地球外生命体としての本能が、この男の側は安全だと言っていた。
「イメージするんだ、どこか遠く、そこにいる自分を」
男の手を取り、言われた通りにイメージする。
目の前が赤く染まり、ボク、いや……『僕』の身体がどこか遠くに引き込まれていく、そんな感覚に囚われた。
「君は異能を手に入れた、そして命を狙われる身となった、一緒に自由を手に入れよう」
いつの間にか、高そうなアパートの一室のような場所に立っていた。
『レプリカとはいえ、電人HALは厄介でしたよ』
「じん君、君がハッキングしてくれたから僕が安全に出て来れたんだ、感謝するよ」
『とんでもないです、では戻りますね』
PCの画面と少し話した彼は、こちらに向き直り、フードの下からこちらを見下ろした。
「ようこそ、新たなる異能者、ナユタン星人君」
──星間戦争とまではいかないが、ここに小さな、いや、小さいようで大きな戦争が始まった、そんな予感がした。
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