魔法使いのカボチャパーティ★2016 中編
時計の秒針の音が世界を包む。
そして、ひときわ大きな音が鳴り時計の長い針も動いた。
0:00を告げる鐘が、月夜に鳴り響く。
『
2016年10月31日0:00。
それまで闇と静寂に包まれていた世界に灯りがともり、仮装をして魔法使いたちが姿を現す。
あちこちで、衣装を見せ合う魔法使いの子どもたち。
魔法をうまく使えるもの達は、魔法を使ってこの夜を彩る。
彼女たちの師匠は、知り合いの魔法使いの男と魔法比べをしていた。
知り合いの魔法使いは得意な電気の魔法で空に様々な色の電気の玉を放った。
「見て見て!!綺麗~!!!」
空を見上げる子どもたち。空を飛んで近づこうとする子どもがいたが、近づくと電気の玉は離れていく。そして、しまいには消えてしまった。
電気のそれは触らなければ綺麗で美しいが、触ると身体中を電気が走る。どうしても触ろうとするならば、消すしかないのだ。
そんな魔法を見た師匠は、ふぅっとため息をつく。
「こんなのはどうだ??」
放った魔法は触っても熱くない火の玉。それは、光の魔法を炎に見せるだけのシンプルな魔法。
「うわー、本物みたい……」
近くにいた子どもたちが火の玉をさわろうと手を伸ばすが、その火の玉に実体はなく、熱くもない。
「これなら、安全だろう?」
そう言って、師匠は魔法を
「……負けたよ」
その魔法使いはお手上げだというように己の魔法を消した。
「さすがに、あんたには敵わないな」
そう言う魔法使いの男に師匠は空を見上げて言った。
「私はアレも好きだったよ。綺麗だった」
そういって、火の玉の一部の色をカラフルに変える。
「ありがとよ」
魔法使いの男は笑いながら人混みに消えた。
「……帰りたい」
空を漂う幽霊(仮装)はポツリと呟いた。
「……楽しそ……」
彼女の目は海賊姿の魔法使いをとらえていた。
「いたいた。もう飽きたのか??」
そこに響いたのは師匠の声。しかし、師匠の姿はどこにもない。
あるのは火の玉を模した光の玉。
「……家が、一番……」
幽霊(仮装)は師匠を探す。
そして、1人こちらを見る師匠を発見する。
すーぅっと師匠のもとまで降りようとした幽霊(仮装)は途中で足を止めた。
「オマエ、ナカマ……?」
目の前には幽霊。
「……めんど」
幽霊(仮装)は小声で呟いた。その声は幽霊には聞き取れていない。
しかし、幽霊(仮装)が突然冷たい雰囲気を纒いだした。
「……ジャマ……スルナ……」
心なしか、声も無機質で、幽霊は身を強ばらせる。
「私に、かまわないでね……」
ほんの少し人間っぽい声を発した幽霊(仮)はすぐに冷たい雰囲気に戻りいい放った。
「サモナクバ……ケス……!」
その声に、幽霊は怯え、さぁーっとその場から離れていく。
そして、今度こそ師匠のもとまでくると、問答無用で師匠に小瓶を握らせた。
その小瓶の中には小さな森のようなものが見える。
「……おやすみ……師匠……」
そう言って、幽霊の仮装をしたままスッと消えた。
「trick or treat!」
"海賊姿の魔法使いがいたずらしまくっている"そんな話はすぐに広まった。
「trick or trick!」
海賊姿の魔法使いが近づいてきて、お菓子を手に待ち受けた魔法使いの大人は笑顔でお菓子を差し出した。
「happy hallow...って、え?trickor trick!?」
しかし、言葉が妙であったことに気づく。
魔法使いはお菓子を奪うように取ると、にっこりと笑顔になっあ。
「うわー!くれるんだ。ありがとう。……それで、いたずらは何しようかな」
数秒後、夜の街に悲鳴がこだました。
「───いやぁ~、いたずらサイコーだね!」
「もぅ……」
茜は、1人路地裏に隠れていた。
サキュバスの仮装。なぜこれになったのかというと、碧が審査を放棄したせいである。
碧が衣装を決めるのなら、少なくともこんなことにはならなかったはずなのだ。
碧の代わりとして審査するために師匠が来るその前に、空が衣装の中から見つけてきた。
しつこく頼まれ、言われるがままに着たのが運の尽き。
着終わったそのタイミングで師匠が来た。
即決だった。
毎年、この日が楽しみであると同時に師匠の目が怖い。私の自慢だからと言って、師匠は茜にのみ毎年衣装を用意する。
茜もそれを無下にできず、毎年用意された中から選んでいた。
(───でも、これはひどすぎる……っ!)
碧や空が魔法で衣装を生成したりして自由な格好をしているのに、茜にはその経験がなかった。
(恥ずかしいよ……っ)
身体のラインが強調され、しかし部分的に補強がかかっている。
こちらに向かう直前も、こっそり別の衣装を着ようとしていたら師匠に捕まり、無理やり魔法で着替えさせられてしまった。
毎年、大人たちの魔法を見たり、お菓子をもらったりするのが楽しみだった。しかし、今年は恥ずかしすぎてできない。
この仮装でいたずらなんで、何をするんだよという話。
今年はもう、大人しくしているしかない……。
そんな想いで路地裏でしゃがみこんでいた茜に、1人の少年が近づいてきた。
「こんにちは。お姉ちゃんは遊ばないの?」
少年は茜の前にしゃがみこみ、目線の高さを合わせる。
茜は「……うん」とうなずいた。
それに少年は遠くで光る街の灯りを見つめながら「お菓子、嫌い?」と尋ねた。
「……大好き、だけど……」
茜のその言葉に少年はパァーッと笑顔になる。
「じゃあ、お菓子の作り方教えて上げるね」
少年の唐突な提案に「え?」と声に出すと、
「僕の得意な魔法はお菓子作りなんだ」と微笑んだ。
その後、茜は帰る時間になるまでずっと、少年からお菓子作りの魔法を教えてもらっていた。そして、最後はお互いに作ったお菓子を交換して別れたのだった。
夜が明るくなっていく。
明るさに比例するように人の姿は減っていき、自然消滅するかのごとくお祭り騒ぎは終息した。
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