第55話 必殺技
翌日、私と紳は木村さんに報告するために、昼から奈良へ向かうことになりまして、インペリアルホテルに対して反撃を開始し、初戦は見事に勝ちを収めたということで、ようやく木村さんに対して全てを話し、今後の対応と対策を検討する事となったのですが・・・
正直に言って、木村さんに報告をしたあと、どうなるのか全く分からない状況で、滋賀のお父さんとも相談したのですが、
「圭介、頼む! どう考えても俺から兄さんにちゃんと報告せなあかんねんけど、さっき電話で話した時に怒鳴り散らされて、ほんまに血圧が上がって具合が悪くなってしまったから、もうしばらく入院することになったから、あとは紳君とお前に任せた!」
ということになってしまい、仕方なく紳と二人で行くことになったのですが・・・
とりあえず午前中はウォルソンの事務所に入ることにして、紳と一緒に自宅を出て私の車に乗り込み、事務所に向かいました。
「圭介さん、奈良のお父さんは僕らに時間をくれますかね?」
「そうやなぁ・・・ 滋賀のお父さんが東新総業の用地買収の話をしただけで、怒鳴り散らされたらしいから、親父の死の真相を話したらどうなるのかは全く分からんけど・・・
だいたい、大阪インペリアルホテルのことも話してなかったし、親父が殺されたきっかけがインペリアルホテルやったってことも初めて話すねんから、どんなに怒られても仕方がないやろう」
「確かにその通りなんですけど、せめて用地買収のことが決着するまでは、大人しくしておいてほしいですよね」
「まぁ、いま二人で何ぼ考えても仕方がないから、とりあえずこっちの必殺技を説明して、インペリアルホテルと東興物産を追い込んで、東新総業の土地を必ず取り戻すから、それまで仇討ちは待ってくれって言うしかないやろう」という結論に達しました。
事務所に到着してみると、状況は昨日と同じで朝から電話は鳴りっ放しの状態でありました。
進はニヤニヤと笑いながら、言葉攻めを楽しんでおりましたので、
「ピロシ、どうや、変わった事がないか?」と訊ねました。
「はい、特に変わったことはないんですけど、進はもうだいぶ飽きてきてるみたいですし、とにかくインペリアルホテルは大阪も東京も、ネットの書き込みを見る限りでは、どえらいことになってるのは間違いないですね」
「そうか、まぁ進を満足させられるようなモンスターなんか、滅多にお目にかかれないやろうから飽きてくるわな。とりあえず俺と紳は今から、奈良のお父さんの所に報告に行くから、そろそろこっちも第2弾と行こうか」
「はい、わかりました。じゃあ、告知内容を奈良のお父さんに確認してもらって、OKが出たらすぐにアップすればいいんですね?」
「うん、そうや。こっちはタブレットを持って行って、その告知を見てもらいながら説得するから、後は頼むわな。じゃあ、行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃい」
様々な不安を胸に奈良に向かいまして、木村さんの自宅に到着して応接室で話し始めたのですが、
「・・・・・」
木村さんは私が何を話しても終始無言で、顔の表情は怒っているようには見えず、どのような感情をも感じ取れないといった無表情が余計に不気味であったのですが、とりあえず私は今までの流れを話し、父の死の真相や、東興物産とインペリアルホテルとの関係などを話した後、今行っているインペリアルホテル大阪に対する攻撃の成果を話し、次に用意している必殺技を話し始めました。
「お父さん、今説明した必殺技っていうのは、こんな感じやねん」と言って、タブレットで大阪インペリアルホテルのホームページを開き、必殺技を告知する内容を見てもらいました。
『出でよ、勇者たち! 家畜以下の下等動物どもに、その神々しい崇高なる御姿を見参に入る時が来た!
我が世界のインペリアルホテルに降臨するのだ!
『第1回 変態ファッションショー大阪大会開催決定!』
優勝賞金300万円
会場は我が世界のインペリアルホテルグループが誇る、『凰鳳の間』で近日開催いたします。
くわしくはWEBにて、順次発表いたしますのでご確認ください』
と、以上のような内容を木村さんに見てもらいましたが、
「・・・・・」
木村さんは見終わった後、目を閉じて腕組みしたまま何事か思案中といった様子で、引き続き黙り込んでしまいました。
(もしかしたら、怒ってしまったんかな?)
と、紳と二人で緊張が走り、私は沈黙に堪えきれずに、
「お父さん、このファッションショーの当日は、本家のインペリアルホテル大阪の鳳凰の間で、関西の政財界の人たちが集まってパーティーするんやけど、関西2府4県の知事も参加する大きなパーティーで、そこに変態の格好した連中を乱入させようと思ってるねん。
インペリアルホテル大阪は絶対に阻止しようと、一切関係がないって向こうも告知したりするやろうけど、向こうの記事に惑わされるなとか、告知合戦をしながらも、とにかくみんなをうまいこと誘導して、変態を一旦インペリアルホテル大阪に集めて、爪あとを残してからこっちのホテルに連れて行って、ほんまにファッションショーをするつもりやねん」
と、私が言い終わったあとも、
「・・・・・・」
木村さんは無言でありました。
(あかん・・・ やっぱり怒ってはるわ・・・)と、叱られることを覚悟して、謝罪の言葉を探し始めたとき、木村さんは徐に目を開き、私の顔を見つめながら、
「わかった。お前らの好きなように考えてやってみぃや。
東興物産にはリニアのことがまとまるまで手は出さんけど、その代わりに、中国の実業家は好きにするぞ。そっちのほうが、東興物産を降参させやすくなるやろう」と言いました。
私は木村さんの言った言葉を、頭の中で精査したあと、
「うん、わかった。お父さん、ありがとう」
と、ホッと胸を撫で下ろしました。
なにはともあれ、とりあえず心の底から進とピロシに感謝をしていると、木村さんは手を伸ばしてきて私からタブレットを取り上げて、興味深そうに再び告知の内容を確認した後、
「圭介、この優勝賞金の300万円は誰が出すねん?」
と訊ねてきました。
「それは、俺と紳で半分づつにして出すつもりやけど・・・」
「あのな、それやったら賞金総額を1000万円にして、優勝者以外にも敢闘賞とか特別賞とか、色んな賞を設けて、みんなに金をばら撒けよ。そうじゃないと、警察に捕まるのを覚悟で、スッポンポンで乱入するごっつい奴とかも出てくるやろうから、そういう人たちに感謝の印として賞金を受け取ってもらうんや。それで、その金は俺が出すわ」
「!・・・」
私はあまりにも予想外な展開に、一瞬言葉に詰まりましたが、
「お父さん、ほんまにいいの?」と、真意を確認しました。
「いいよ、金は俺が出す。それで紳、もしも逮捕者が出たら、お前が弁護して、あとのこともちゃんと面倒みてあげろよ」
「はい、分かりました、お父さん!」
これで、全ての懸案事項が解決となりましたので、あとは4日後の改装工事の終了と、10日後の決戦の日を待つのみとなりました。
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