第54話 反撃開始
「はい、そうです、4本足で歩くワンちゃんのお肉です・・・
ですから、貴方様にとってはご家族かもしれませんけど、・・・・
はい、そうなんです。大変申し訳ないんですけど、食べたら美味しいんです ・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
だから、あんたの家族を食べてるわけじゃないって言ってるでしょう?・・・・・
・・・・・・・・
ほんだらなにかぃ! 世界中のチワワがあんたの家族なんかぃ!
言うとくけど、チワワなんか小さすぎて食べるとこないし、食うても美味くないんじゃい!
このボケ~! 2度と電話してくんな!」
マリは受話器を叩きつけるようにして電話を切りましたが、間髪入れずに、
「プルルルル プルルルル」と電話が鳴りまして、マリは満面に怒りをあらわににしながら電話に出て、
「ウゥー、ワゥワゥ!」
と吼えて電話を切ったあと、すかさず留守番電話に切り替えてしまいました。
「もう、圭介さん! 紳一! 私もう電話に出たくない! なんで私とピロシの時にはクレーマーばっかりで、進の時には訳の分からん、楽しそうな電話が掛かってくるのか知らないけど、そんなん不公平じゃないですか!」
確かにマリの言うとおり、なぜか不思議と進が出る電話は頭のおかしな連中ばかりで、進は積極的に話を弾ませて、時折笑みを浮かべながら嬉々としてクレーム対応を楽しんでおりました。
さっそく進は留守番電話を解除して、鳴り止まない電話に出て話し始めました。
「はい、大阪インペリアルホテルでございます。・・・・・
はい、チラガー犬鍋の件でございますね?・・・・・
はい、大変申し訳ございません! 今のところ出前を行う予定はございませんので、当ホテル内のレストランにて、」
「ほら! また進の時だけ変な電話じゃないですか! これって、なんなんですか?」とマリが言うと、
「マリさん、それは勘違いなんですよ」とピロシが言いました。
「かんちがい?」
「はい、進は基本ドMなんで、あいつが楽しそうに話している時は、本当は相当きついクレーマーからの電話で、あいつは酷いことを言われれば言われるほど喜びを感じているから、傍から見たら楽しそうに見えてるだけなんですよ」
「え~っ! そうやったん?」
ピロシは進の所に行って、電話のスピーカーのボタンを押して、相手の話し声がみんなに聞こえるようにしました。
「われ、こら! 俺がいつ、出前を注文したんじゃい! さっきから訳の分からんことばっかしぬかしやがって! 俺が訊きたいのは、お前らほんまにインペリアルホテルのくせに、あんな怖い顔した犬を食うのんかっていうことなんじゃ!」
「はい、ありがとうございます。いずれは出前を行えるよう、より一層、企業努力をして参りますので、」
「だから、俺は出前なんか注文してないって言うとるやろうが! われは頭がおかしいんかぃ!」
ピロシはスピーカーのボタンをOFFにして、
「ねっ、酷いこと言われているでしょう?」と言いました。
「・・・・・」
「まぁ、所詮クレーマーなんて、進にとっては奴隷みたいなもんですからねぇ」
「どれい?」と、マリがピロシに訊ねました。
「はい、進の叱って欲しい願望とか、怒られたい欲望を満たすための、ただの奴隷なんですよ」
「・・・・・」
私たちは改めて、進のまるで底無し沼のような奥の深さを理解し、戦慄を覚えると同時に、畏敬の念を覚えました。
ということで豚頭狗肉作戦は既に始まっておりまして、私たちは今後の参考のために、どういったクレームが来るのかを検証しようということで電話に出ているのですが、掛かってくる電話の内容は実に多様で、そのほとんどが『なぜ、世界のインペリアルホテルが犬の肉を?』という問い合わせと、『沖縄と韓国の食文化を馬鹿にしているのか!』といったクレームで、『韓国に魂を売った売国奴め!』といった辛辣な意見もありました。
しかし、中には戦時中にフィリピンで食べた犬の肉の味が忘れられないといった、93歳の老人から、必ず食べに行きますと言われましたので、罪の意識を覚えて胸が苦しくなるような内容などもあり、とにかく期待しているので頑張ってほしい、といった叱咤激励な意見なども含めて、まさに千差万別な貴重な意見を今後に活かせるのかは別にして、実に様々なデータを採取することができました。
こうなると、当然気になるのは攻撃対象であるインペリアルホテル大阪で、向こうがどうなっているのかを確認するために、全員で電話を入れているのですが、何度電話しても一向につながらないので、おそらくあちらの電話回線はパンク状態になっていると思われ、一度だけピロシの電話がつながったのですが、チラガー犬鍋と言った瞬間に、
「当ホテルとは一切関係がございません!」と言って、わざわざ親切丁寧にこちらの電話番号を教えてくれましたので、インペリアルホテル大阪の業務は非常に混乱しているということで、作戦は大成功と言っていいでしょう。
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