第53話 戦評定

 古来より、今まで無かった全く新しい戦法というのは、なんの先入観も固定観念も持たない素人から生まれることが多く、私や紳や渡瀬さんといった、社会経験が豊富な金融のプロが3人集まっても文殊の知恵とならなかった難局を、進とピロシの素人はいとも簡単に答えを導き出してしまったようで、二人が思いついた豚頭狗肉作戦を実行するべく、みんなで意見交換を始めました。

「どうせやったら、シーシェパードも仲間に入れて、鯨の肉も売りましょうか?」と、開始早々と紳があぶない意見を述べたのですが・・・

 私はシーシェパードの過激な抗議活動を思い出し、

「いや、シーシェパードは過激すぎて、事件になる恐れがあるから、可愛そうやけど今回は仲間外れにしよう。だから、その代わりに、どうせやったらホームページを思いっきり人を小馬鹿にしたような感じにしようや。

 例えば、

『我が、世界のインペリアルホテルグループが誇る総料理長、原田マリ氏の渾身の会心作、チラガー犬鍋を是非ご賞味あれ! 乞うご期待!』

 っていうような感じで、インペリアルホテルの感情を逆撫でしまくったような内容にしたらどないや?」

「なんで私の名前をつかうのよ!」

「圭介さん、私も嫌ですよ!」

 と、あろうことか千里とマリは協力を拒否しました。 

 進は得意のWEBデザイン技術を活かして、みんなの意見を聞きながら、ホームページの修正を始めましたので、

「おい進、その犬の写真を、口の周りが黒い、いかにも凶暴そうな大型犬に差し替えてくれ!」と、社長命令を発しました。

「え~っ? でも、口の周りが黒い犬って、どう見ても美味しそうじゃないやんか~!」

「いや、これだけは譲れん! なぁマリ、そうやろう?」

「なんで、私に同意を求めてくるんですか!言っておきますけど、私はもう日焼けしないんで、口の周りが黒い犬から遠ざかっていってるんですよ!」

「?・・・・・」

 私とマリ以外、今の会話の意味が分かりませんので、妙な表情を浮かべておりましたが、気になる方は第1章の『メェ~』と『ワゥ』をご覧下さいませ。

 その後、みんなで膝を突き合わせて、

『ハッスル爆発間違いなしの「チラガー犬鍋」はじめます!』

『ナウいヤングのナイスな集い♡「魅惑のチラガー犬鍋パーティー」開催決定!』

『妻よりも、仕事よりも、チラガー犬鍋・・・』

 といったような喧喧諤諤、様々な意見が飛び交い、 

「圭介さん、なんだか凄く楽しいんですけど、これって不謹慎ですか?」と、紳に言われてみると、

「いや、俺もめちゃくちゃ楽しい!」と、久しぶりの浮き浮き感で相好が崩れてしまったのですが、

「あのう、圭介さん、本当の楽しみは豚頭狗肉の次の作戦なんで、これはあくまで小手調べというか、先ずはかる~くジャブで挨拶をしておいて、そこからじわじわと寝技で締めていって、最後はキックの鬼、沢村忠の必殺技、『真空飛び膝蹴り』で、インペリアルホテルをマットの底に沈めてあげる予定なんで、本当の楽しみは必殺技が炸裂した、その時ですよ!」と、不敵な笑みを浮かべたピロシが、自信に満ち溢れたコメントを発表しました。

「真空飛び膝蹴りって・・・ いうことは、まだ他にも違う作戦があるっていうことなんか?」

「はい、今回の作戦で宴会場を改装して、ほんまにチラガーと犬鍋を売ろうと思ったんですけど、色々と調べていったら、調理師の免許とか、飲食業の登録とか、沖縄からチラガーを取り寄せるのも面倒なんですけど、何よりも韓国から犬の肉を輸入するのがややこしかったので、豚頭狗肉作戦はあくまでWEB上の空中戦にしておいて、次の作戦は本格的に肉弾戦の地上戦をやりますから、地下の宴会場を改装して、『鳳凰の間』というネーミングにして、その作戦の檜舞台にしたいんですよ!」

「ほうおうのま?」

「はい、インペリアルホテル東京と大阪の宴会場の名前が両方とも『鳳凰の間』なんで、法律的に問題がなければ同じにしたいと思ってるんですけど、紳さん、どうなんでしょうか?」

 紳はしばらく考えた後、

「いや、それは法的に問題があるな。まったく同じ名前は避けて、漢字をひっくり返して『凰鳳の間』にしたらどうやろう。

 漢字の弱い奴は違いに気がつかないやろうし、気がついたらついたで、世界のインペリアルホテルのくせに間違ってるやないか!ってクレームになるから、こっちとしては願ったり叶ったりやから、ひっくり返して使おう」と、瞬時に素晴らしい意見を提言しました。

「なるほど・・・ じゃあ名前はそれでいくことにして、お前ら、宴会場を改装して、何をするつもりやねん?」

「はい、とりあえずインペリアルホテルの近藤君を血祭りに上げて、それからインペリアルホテルの企業としてのコンプライアンスを正したあとで、近藤君に対する管理義務を怠った監督不行き届きの責任として、世界中に恥を晒してもらう予定なんですよ」

「そう! 世の中で変態のオカマが、一番敵にまわしたら怖いっていうことを、近藤ちゃんたちに分かってもらうの♡」

 と言ったあと、二人は嬉々として『必殺技』を私たちに説明してくれました。


「おまえら・・・ 本気でそんなことするつもりなんか?・・・」


「はい、最終的にはマスコミを巻き込んで、SNSを最大限に活かしながら、近藤君に詰め腹を切らせて再起不能にしてしまったら、引いては東興物産も坂上も大阪インペリアルホテルを倒産させることが出来なかったことが全ての原因ですから、ただじゃ済まないでしょう?」

「・・・・・・」 

 私は改めて、ピロシと進の真の恐ろしさを、骨ぬ髄まで思い知らされた後、

「紳・・・ どう思う?」と訊ねました。

「想像しただけで、恐ろしくて震えてしまうんですけど・・・やるしかないでしょう!」

 ということで意見がまとまり、先ずは小手調べの豚頭狗肉作戦の具体的な実務の作業に取り掛かりまして、

「もし、こちらの住所と連絡先を消して宣伝してしまったら、インペリアルホテルに訴えられた場合、信用毀損と威力業務妨害の罪に問われる可能性がありますから、とりあえず住所と連絡先は分かりにくい所に小さく残しておいたほうが無難ですね。

 それで、実際に誰か文句を言いに行っても、ホテルは改装工事中ですし、電話はウォルソンの事務所に転送してて、ただいま工事中っていう音声を流していますから、どっちにしてもこちら側は問題が無いですし、ほんまに文句を言いに行くようなややこしいヤカラは、本家の方に行くやろうから問題はないでしょう」

 と、完全に酔いが醒めた紳は弁護士としての自覚を取り戻し、専門家として犯罪ぎりぎりのアドバイスの下に、ホームページの内容を精査していきました。

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