第48話 分析

 この日は結局、東新総業と連絡はつかないまま夜になり、紳を自宅に呼んで対策を話し合うことにしました。

 一緒についてきたマリと4人で千里の手料理で夕食を終え、仕事の邪魔にならないようにと千里とマリは紳の自宅に行きましたので、久しぶりに自分でコーヒーを入れて、紳と飲みながら対策を話し始めました。

 先ず私は、昼間に思いついた大阪インペリアルホテルへの介入が、相手方にとっては反撃の狼煙となっているのではないか?ということを紳に話すと、

「そうですねぇ、言われてみれば確かに東興物産はそう捉えてる可能性は高いと思いますよ。だから、向こうも警戒して、こっちの狙いが分からないから東新総業の電話に出ないのかも知れませんね」

 と言ったあとで、しばらく間を置き、

「でもねぇ・・・」

 と、やはり紳も私と同じ結論で、警戒心を持たせて時間稼ぎをするという以外に、大阪インペリアルホテルの有効な活用方法を見出すことは出来ませんでした。

 方程式が分からない以上、答えを導き出すことは出来ませんので、これにて大阪インペリアルホテルの利用価値についての話は終了し、次に4日後に迫ったJR東日本の部長との会合についての話に移りました。

 もしもこのまま部長と会って話をした場合、様々な議題の中に必ず工場の移転問題が含まれますので、まさか嘘をつくわけにも行きませんし、先行きが不透明な現時点で正直に話すことも避けたいということから、奈良県側の取りまとめは無事に成功したと報告し、私と紳でまとめた書面を郵送で送ることにして時間を稼ぎ、なんとか会うことを避けることにしました。

「じゃあ、竹下会長に病気になってもらって、入院してもらいましょうか」

「そんなん、もしお見舞いに行きますって言われたらアウトやろう」

「インフルエンザがあるじゃないですか」

(なるほど)

「2週間は時間が稼げますよ。でも、その間に決着をつけないと、後からどえらいことになってしまいますから、本当は自分で掛け金を吊り上げるようなことはしたくないんですけど、この際仕方がないでしょう」

 携帯電話を手に取り、滋賀のお父さんに電話をしました。

 話を聞き終わったお父さんは、

「そうやな・・・ 確かに今のままでは延期した方がいいやろうから、インフルエンザということで、知り合いの病院にほんまに入院しとくわ」

 ということで、最も重要であった担当責任者である部長との初会合を、こちらの失態によって延期することにしました。


 その後、話題は父とインペリアルホテルの関係に移り、様々な角度で話し合ったのですが、

「もしかしたら、会長はインペリアルホテルと何か仕事を一緒にしようとしてたんじゃないですか?」と、紳が言いました。

「それは俺も考えててんけど、インペリアルホテルが命を狙われるようなやばいことに手を出すとは思われへんし、そこに東興物産がどう絡んでくるのかってことが、いまいちよう分かれへんねん」

「それはね、僕も昼間に色々と考えてたんですけど、もともとインペリアルホテルの近藤と東興物産の社長と坂上がグルになってて、近藤が大阪インペリアルホテルの一件で干されてる間に、インペリアルホテルの揉め事を会長が解決してたんじゃないですかね?

 それで、このままやったら近藤は自分が戻るポジションが無くなりますし、東興物産と坂上にすれば、インペリアルホテルのトラブルシューティングと裏の仕事をするって言うことは、光栄この上ない名誉職みたいなものじゃないですか。それをそっくりそのまま会長と北都に奪われることを、指を咥えたまま見てることに我慢ができなくて、近江精工所のこともありましたし、どうしても会長の存在が邪魔になって、命を狙ったんじゃないですかね」

「なるほどなぁ・・・ 確かにインペリアルホテルの後ろに付くっていうことは、イコール裏日本の経済界の頂点に立つっていうことになるから、東興物産にしてみたら、どうしても死守したいポジションということになるのか」

「はい、それで会長が亡くなられて、インペリアルホテルのトラブルを解決できなくなったことで、冷や飯を食らってた近藤が総務部長に返り咲いて、東興物産と坂上も元の鞘に収まったと考えたら、全ての点が線で結ばれるじゃないですか」

「・・・・・」

 改めて紳の分析能力の高さに舌を撒きましたが、褒めるのが嫌だったのでお馬鹿さんになってもらうことにして、

「まぁ、とりあえず後は渡瀬さんの報告を待つということで、ビールでも飲もうや」と言って、千里とマリを呼び戻し、一緒に酒を飲みながら、紳がアホになっていく姿を眺めました。

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