第43話 アルバム
夕食の後、妻の幼い頃の写真を見るというのが私のひとつの夢であったので、原田家の写真を引っ張り出してもらい、リビングで見ることになりました。
几帳面な性格のお母さんはアルバムの整理もちゃんと行っていて、千里の生まれた時からの写真から順に見ることになりました。
「やっぱり千里は、赤ちゃんの時から飛び抜けて可愛かったんやな」
「そうやろう、当たり前やん!」
(ちょっとは謙遜せぇよ!)と思いながら、赤ちゃんの時の千里を抱っこしているお母さんの若い頃は、本当に天下の森高とそっくりであったので、
「お母さんは今でも綺麗ですけど、若い時は本当に可愛らしかったんですね」と言った後で、うっかり原田家の家訓を破ってしまったことに気付きました。
「ほんまに、圭介君って可愛いわぁ。千里、圭介君と結婚してくれて、ありがとうね!」
「もう、うるさい!」
「あんた、なんて顔してんのよ? ふつう、自分の母親が褒められたら喜ぶんじゃないん?」
千里は般若のような形相で、私を睨み付けながら、
「圭介! 早く次のアルバム見いよ!」と言いましたので、言われた通りに次のアルバムを手にして、慌ててめくり始めました。
千里の小学生の頃のアルバムを見終わり、中学と高校の時の写真を見ていきますと、途中途中で彼氏らしき男性とツーショットで写っている写真が目に付き始めたとき、
「圭介、怒ってる?」と、千里が訊ねてきました。
「えっ! なにが?」
「だって、顔が怒ってるように見えるから、嫉妬してるんかなぁと思って」
私は元々、嫉妬深い性格ではありませんので、千里の元彼に対して、特に何も意識せずに、ただ若い頃の千里の可愛らしい姿だけを目で追っていたのですが、
「そんなん、あんたが今まで付き合ってきた男性が、全員で束になって掛かっていっても、圭介君には適えへんねんから、圭介君が嫉妬なんかする訳ないやろう!」と、お母さんが私の気持ちを代弁してくれましたので、
(Yes Off Course)と思っていると、
「何よ、その言い方! 確かに大した奴なんかおれへんかったけど、圭介は写真見て、ほかしたろうとか思えへん?」と訊ねてきました。
(いぃやぁ、大切な思い出の1ページなんやから、別に置いてたらいいんじゃないん?)と、本心では思っておりましたが、この場合は私がヤキモチを焼かないと、千里の自尊心が傷付くという、複雑な女心は理解しておりますので、面倒くさいと思いながらも、
「なんか、やっぱりこうやって写真を見たら、腹立つわな!」と、千里の自尊心を満足させてあげました。
すると千里は、さも満足げな笑顔で、
「やっぱり、ヤキモチなんか焼いて・・・圭介ってかわいいなぁ♡」
と言いながら、私の頭をなでなでしてきました。
(あぁ、うざぁ・・・)
「もし、あんたが圭介君の元彼女の写真を見たら発狂するやろう?」
とお母さんが訊ねると、千里は間髪いれずに、
「そんなん、発狂するに決まってるやん! 圭介、アルバムって、どこに置いてるの?」と言いました。
(発狂するんやったら見るなよ!)と思いながら、
「俺の写真は、母さんの実家に置いてるから、流清寺の隣やで」と言って、ここ10年近くに彼女と撮った写真は、自室の机の中にありますので、それらを全て処分することにしました。
「じゃあ、今度はいつ連れて行ってくれるの?」
「いつって、母さんの実家にってこと?」
「そう、私も圭介のアルバム見たいねん」
「・・・・・」
どうやら千里は、発狂せずにはいられない模様です・・・
私は中学と高校の頃、なぜか後輩のちょいブスやブサカワな女の子たちに異常に人気がありまして、母の実家には50人以上の女の子たちと撮った写真が、数え切れないほどありますので、ヤキモチを焼くだけでは済まず、母の実家と流清寺を巻き込んで、大炎上してしまうかもしれません・・・
「なぁ、いつ連れて行ってくれんの?」
(しつこいな!)と思いながら、「じゃあ、県人会が終わってからにしようか」と、具体的な日時を定めずに、千里が忘れてくれることを期待しながら、最後のアルバムを手にとってめくりますと、
「?・・・」
なぜか写真が一枚もありませんでした。
「あぁ、それはまっさらやから、写真は一枚も貼ってないわ」と、お母さんは言った後、何かを思い出したときのような表情で、「そうや、お父さん、今から浜さんに写真をお願いしようよ!」と言いました。
「そうやなぁ、隣の浜さんがカメラマニアやから、今から呼んで圭介君を紹介して、ついでに写真を撮ってもらおうか」
「うん、パパ、そうしよう! 私が浜のおっちゃん呼んでくる」
こうして原田家の新しいアルバムに、最初に飾る一枚目の写真が決定しました。
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