第6章 敵を知り、己をしれば・・・

第42話 切り札?

 流清寺からの帰り道、千里の両親にも父のことを話すことに決めて、箕面の実家に寄ることにしました。

 千里は話さなくてもいいと言ってくれたのですが、どうしても私の気持ちが落ち着かず、このままでは溜飲が下がらないので、千里に連絡してもらい、夕食を一緒に食べようということになり、私たちはそのまま泊まることにして箕面に向かいました。

 夕方の帰宅ラッシュ前に名神高速に乗ることができましたので、箕面へは6時前に到着し、家の近くのイオンでビールと刺身、イカの沖漬けや鯨のおばけ、十と一いちの奈良漬やカラシ蓮根といった、山海の珍味などを買って実家に着きました。

 買ってきた食材を冷蔵庫にしまった後、お母さんがお風呂を沸かしてくれていたので入ることになったのですが、

「一緒に入ろうよ!」

「いやや! はずかしい!」

 と、初めて実家に来た時と、千里と私の立場がそっくり入れ替わってしまいまして、

「夫婦やねんから、一緒に入りなさいよ」とお母さんにも薦められ、仕方なく一緒に入ることになり、いつものように洗いっこした後に湯船に浸かりながら、

「ほんまに言うの?」と、千里が念を押してきました。

「言うよ」

「そんなん、言ったとしてもパパとママは驚くやろうけど、圭介に対して態度が変わったりなんかしないよ」

「だったら、余計に言ったほうがいいやろう?」

「・・・・・」

 ということで、予定通りに話すことに決めてお風呂から出た後、この前に来た時に千里が新品の下着や靴下、パジャマなどを持ってきて、実家に置いていたのでそれに着替え、ダイニングに向かいました。

 すでに夕食の準備が整っておりましたので、そのままテーブルに着きまして食事が始まり、私と千里はラーメンを食べた後であったので、軽く刺身をつまみながらビールを飲み、私は酔いが回り始める前に、

「お父さん、お母さん、実は僕の父のことで、ずっと黙ってたというか・・・嘘をついてたことがありまして・・・」と、言いにくさを我慢して、話し始めたのですが、

「知ってたよ」

 と、いきなりお父さんから言われてしまい、

「えっ! お父さん、知ってたんですか?」と、確認しました。

「うん、圭介君には黙っておこうと思っててんけど、どう考えても圭介君の若さで、あれほどの財力と実力を持ってるのが信じられなかって、只者じゃないなと思ってたんよ。

 それで、私も新聞とかニュースは欠かさずに目を通すほうやから、2年前の事件のことは記憶に新しかったし、確か亡くなられたのは日本一の経営コンサルタント会社の会長やったということを憶えてたから、その時の記事をネットで確認したら、やっぱり苗字が北村さんやったから、圭介君のお父さんということが分かってんけど・・・ 私もお母さんも千里には黙ってて、知らない振りをしようって決めてたんよ」

「そうだったんですか・・・」

「うん・・・ でも、なんて言うたらいいのか・・・ 圭介君が言いにくかったというのは分かるねんけど、私はほんまに、圭介君のお父さんには、どんな言葉で表していいのか分からないくらい感謝しているし、圭介君が千里と一緒になってくれたから、今こうして何の心配もなくゆっくりできているし、それもこれも全てお父さんのおかげやと思っているから、ほんまに感謝してるんよ・・・

 それに、なによりも圭介君を見てたら、ご両親がどれだけ立派な方やったかがよく分かるから、圭介君が気に病むようなことなんか何一つないよ」

「そうやよ、ほんまに私も圭介君のご両親には、心から感謝しているし、圭介君にも言葉に出来ないくらい感謝してるねんよ」

「ありがとうございます。でも、本当に感謝しなくてはいけないのは僕の方で、もしも千里と出会ってなかったら、僕のこれからの人生はボロボロになってたんですよ」と私が言うと、両親は得心の行かないといった表情で、

「人生がボロボロって・・・ どういうこと?」と、お父さんが訊ねてきました。

「はい、実は、僕を助けるために、僕の両親が千里を捜し出して、僕のところに連れてきてくれたんですよ」

「?・・・・」

 両親は互いに顔を見合わせ、益々分からないといった怪訝な表情になりました。

 すると、黙って話を聞いていた千里が、

「あのね、今日、圭介のご両親に入籍の報告をしにお墓参りに行って来て、流清寺の住職の竹然上人様に会ってきて、色々お話してきたの」と言って話し始めましたので、私も千里から竹然上人とどういう話をしたのか詳しくは聞いていなかったので、両親と一緒に聞くことにしました。


 竹然上人の話によると、私はもうすぐ巨大な敵が目の前に現れて、戦わざるを得なくなるのですが、もしも千里と出会っていなければ、徒手空拳の私は再起不能なほどに叩きのめされて、ボロボロになっていたそうです。

 そんな私の危機を救うために、私の両親が敵を打ち負かす切り札を手にした千里を捜し出し、私の元へ連れてきてくれたそうです。

 その、肝心の切り札というのは、原田家が所有しているものなのですが、原田家だけではその力を発揮させることはできず、北村家とひとつになることによって、初めて効力が生まれるもので、すなわち私と千里が出会い、結婚したことによって、巨大な敵を打ち負かせるほどの切り札となるということらしいのですが、ここまでの竹然上人との話で舞い上がっていた千里は、肝心の切り札が何なのか、具体的な説明を求めなかったので、

「たぶん、切り札って私自身のことやと思うけど・・・」

 と、最後はなんだか訳の分からない解釈となってしまったところで、千里の話は終了しました。

「?・・・・」

 千里の話があまりにも抽象的すぎて、私はいまいちよく理解できませんでした。

 すると、お父さんが珍しく険しい表情で、

「巨大な敵って、もしかして圭介君のお父さんを襲った連中じゃないやろうな?」と訊ねました。

「大丈夫! 私が圭介のそばにいる限り、危険な奴らは一歩も近づくことができないねんって! だから、これからは私が圭介を一生守っていかなあかんようになってん」と、千里は自信満々といった表情で言い切りました。 

 すると、今度はお母さんが、

「もしかして圭介君、そのチク~なんとかっていう住職さんって、20年位前にテレビのお昼のワイドショーで、心霊写真の鑑定とか、悩みの相談とかしてたお坊さんじゃない?」と、私に訊ねてきました。

「はい、おそらくそうですよ。竹然上人は一時期、テレビで占いとか除霊とかやって、すごく有名になってた時がありましたからね」

 尤も、調子に乗ってテレビに出まくったことによって有名人になってしまい、大好きだった競馬、競輪、競艇、雀荘、パチンコなどに気軽に通えなくなってしまったことを、死ぬほど後悔していたことは、千里を元気にしてくれた御礼として、黙っておいてやることにしました。

「え~っ! やっぱりそうやったん? 私、テレビでよく見てて、本物のすごい霊能力者やって思ってたんよ! じゃあ千里、あんた色々と占なってもらったりしたん?」

「うん、そうやで! 私の過去のことをびっくりするくらい、全てパーフェクトに言い当てられたから、初めはめちゃくちゃ怖くなってしまってんけど、ママのことも私とママしか絶対に知らないことまでズバリと言い当ててしまって・・・

 それで、今度はママと一緒に遊びにおいでって言ってくれて、精進料理をご馳走してくれるって、約束してくれてんで!」

「うっそ~? 行こ行こ! めっちゃドキドキしてきたわ!」


 以上のような、分かったような、分からないような、どちらかよく分からない千里の話であったのですが、竹然上人がどうしても私に伝えなければならない重要な事は、直接電話が掛かってきますので、千里に対してこれ以上の詮索はしないでおくことにしました。

(切り札って、本当に千里のことなんかなぁ?)

 と、ぼんやりと考えながら、再びビールを飲み始めました。

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