第32話 あほパーティーピーポー
本日は千里と私の婚約記念パーティーを開催するということで、朝から二人で食材の買出しや、料理の下ごしらえなどで大忙しとなっておりました。
パーティーはテラスでバーべQと焼肉をすることになりまして、昼から千里の両親が応援に加わってくれたおかげで、3時には大方の準備を終えることができました。
千里がお母さんを連れて家の中を案内している間、お父さんと私はテラスでデッキチェアに座ってビールを飲みながら、これからのホテルの経営についての話を少しだけした後、ここ最近は気の休まることのなかったお父さんは久しぶりにゆったりとした時間を過ごしている様子で、とてもリラックスしているように見えました。
「それにしても、圭介君はすごい家に住んでるねんなぁ」
「いえ、全部親が遺してくれたものですから、自慢なんかできませんよ。それで、千里にも話したんですけど、東側の部屋はお父さんとお母さんの専用の部屋ですから、今日はゆっくり泊まってもらって、これからはいつでも好きな時に来てくださいね」
「ほんまに、もしも千里が圭介君と出会ってなかったら、今頃はどうなってたんやろうって、お母さんと話してたんやけど、親孝行の娘を持って幸せやわ」
「いえ、僕のほうこそ、千里に出会えたおかげで、本当に幸せなんですよ。だから僕は、お父さんとお母さんが千里を生んで大事に育ててくれたことに感謝しています」
家の中を見て回ったお母さんと千里が戻ってきて、
「圭介、これ見て! パパとママから婚約記念の贈り物!」
と、左腕にはめた腕時計を見せながら、私の隣に来て、
「はいっ、これ圭介の!」と、右手に持っていた腕時計を私に手渡してきました。
私は椅子から立ち上がって受け取り、
「うわっ! ロレックスじゃないですか!」と、驚きました。
「見て!デイトジャストのメンズとレディースで、圭介とペアやねんで! 早くはめてみて!」
受け取った腕時計を左腕にはめてみますと、
「えっ! ぴったしやわ」と、また驚きました。
「圭介が寝てる間に、私がメジャーでサイズを測っててん」
「そうやったん・・・ でも、これ・・・ お母さん、めちゃくちゃ高かったんじゃないですか?」
「なに言うてんのよ! こんな我が侭な娘をもらってもらうのに、ちっとも高くなんかないわよ!」
「何よ、その言い方!」
また、恒例の喧嘩が始まりそうだったので、
「お父さん、お母さん、ありがとうございます。一生大事に使わせてもらいますね」と、感謝の気持ちを述べつつ、千里とお母さんの間に割って入りました。
「いいえ、どういたしまして。じゃあ千里、準備も終わったから私らも一緒にビール飲もうよ」
「うん、私が持ってくるから、ママも座って待っといて」
それから私たち4人は、軽くビールを飲みながら、千里が作ってくれたスライスしたキュウリとレモンを載せたスライスサラミと、クラッシュアイスの上に並べた輪切りのレーズンバターをつまみながら、みんなが到着するのを待っておりました。
家族団欒の幸せな時間が流れ、時刻が5時を過ぎましたので、私とお父さんで炭に火を点けてバーべQのセットをしているときに、千里の携帯電話が鳴りまして、電話に出てなにやら話した後、
「圭介、マリからなんやけど、進君が友達を連れてきていいかって訊いてきてんねんけど」と言いました。
「いいよ。連れておいでって言っといて」
「うん、わかった。マリ、あのな、圭介がいいよって」
進が友達を連れてくるとは非常に珍しいと思い、(どんな奴を連れてくるんやろう?)と、興味が沸いてきました。
その後、6時前にマリが到着し、お土産に幻の焼酎『森伊蔵』を持ってきてくれまして、千里とお母さんの3人で、また家の中を見学に行きまして、そのあとすぐに紳が到着しまして、彼はお土産に、私と千里の生まれた年に作られたワインを持ってきてくれました。
紳はお父さんと私の隣に来て、
「今日は、全ての金融機関を回って話をしてきましたよ」と言いました。
「それで、どうやった?」
「首尾は上々、細工は流流、仕上げを御覧じろ、ですね」と言いましたので、私もお父さんもそれ以上なにも訊ねないことにしました。
あとは紳の思いどおりにことは運ばれていくでしょう。
そのあとすぐに、インターフォンが鳴って進と友だちが到着しまして、千里が出迎えに行きましたので、みんなでいったんリビングに集まって、自己紹介をすることにしました。
進が連れてきた友人というのは、紺色のリクルートスーツを着た、髪型もさっぱりとした感じの短髪で、年齢はおそらく進と同じくらい、170センチほどの中肉中背で、顔立ちは一昔前の苦学生といった、ナウいヤングにしては珍しい、とても真面目そうな好青年といった印象を抱きました。
「初めまして、
と、見た目に違わずきちんとした挨拶のあと、
「これは、みなさまで召し上がっていただこうと思いまして持って参りました」と、これまた幻の日本酒『越乃寒梅』をお土産に持ってきましたので、
(こいつら、今日はとことん飲む気やな・・・)と、私も覚悟を決めました。
みんなでテラスに出て、ビールで乾杯をすることになり、それぞれビールを片手に持ちまして、乾杯の挨拶は紳がすることになりました。
「それでは、圭介さんと千里さんの婚約を祝しまして、乾杯!」
「かんぱい!」
こうしてみんなでバーべQを囲みながら、塩タンから焼き始め、串刺しした野菜や肉などと続き、今度はロースやバラ、ハラミやテッチャンと焼肉に移行して、ある程度お腹がいっぱいになったところで、
「ピロシと進は、どういう関係なん?」と訊ねてみました。
「あっ! ピロシってかっこいい♡ これから私もピロシって呼ぼう!」と進が言った後、
「はい、僕と進は、鳥取の○○大学で知り合いまして、僕のほうが一学年上だったんですけど、それからお付き合いしています」
「ピロシはね、籠の中の私を救い出してくれた王子様やの♡」
(ということは、ピロシのおかげで、進がマトモ?じゃなくて、自分らしく生きることができるようになったっていうことやな)と、見た目からはゲイであるとは想像できないと思いましたので、
「ということは、つまり・・・ ピロシもあっちの人か?」と、ピロシに訊ねてみました。
「はい、でも僕はタチ専門なので、リバの進とは違いますけど」
「ちょっとピロシ! 私はもうリバじゃなくて、ネコ専門なんやから、アニキに変なこと言わんといてよ!」
「ちょっと待て! 変なこともなにも、さっきからお前ら、ネコとかタチって何を言うてんのか全然分からんわ! 専門用語を使うな!」
といったような、とても楽しい雰囲気で宴は進み、ビールから焼酎へと切り替えて、あっという間に『森伊蔵』が無くなりまして、今度は『越乃寒梅』に手を伸ばし、またもや瞬きしている間に空となってしまいました。
とにかく千里とお父さんはいくら飲んでも全く酔わなかったので、紳が持ってきてくれたワインも開けて飲み始めた頃、進とピロシはなにやらひそひそと打ち合わせをした後、二人で立ち上がってリビングに置いていた紙袋を持ってきまして、
「アニキ、今からピロシと二人で、アニキと千里姉にダンスを披露したいの♡」と言いましたので、
「おぉ、そうか! じゃあ見せてもらおうか!」と私が言うと、
「二人とも、がんばって!」と、千里も声援を送りました。
「それでは、幸せなお二人に捧げる、僕と進の愛の社交ダンスを披露したいと思います」と言って、二人は抱き合い、片手を垂平に上げてしっかりと握り合い、もう片方の腕はお互いの腰に回して上半身をのけ反らせ、
「アニキ、千里姉、見ててね♡」と言って、二人は踊り始めました。
「スコーンスコーン小池がスコーン♪(回転しながら移動)
スコーンスコーン小池がスコーン♪(回転しながら移動)
カリをサクッと進にスコーン♡(ピロシがバックから進に一突き)
カリをサクッと進にスコーン♡(ピロシがバックから進に一突き)
スコーンスコーン小池がスコーン♪
スコーンスコーン小池がスコーン♪
カリをサクッと」
「もういい! わかった!」
(こいつら、お父さんとお母さんの前で、なにさらしとんじぇい!)
と、一気に酔いが醒めてしまいました。
紳とマリは二人とも、「あ~はっははは!」と笑っていましたので、二人を軽く睨んだあと、
「お前ら、今のダンスは、俺と千里に何の関係があんねん?」と、進とピロシに訊ねてみました。
「それは、僕たちのように、華麗に愛し合っていただきたいという想いが込められています」
「そうやよ! アニキたちも一緒に踊る?」
「・・・・・」
(華麗って・・・ こいつら、マジかぁ・・・)
と思いながら、二人が持ってきた紙袋の中を見ました。
「それで、この紙袋の中のロープで、次は何をするつもりやねん?」
「それは、SM官能ミュージカルの『アクメくん』を披露するために持ってきました」
「そうやの! アニキと千里姉に見てもらうために、二人で一生懸命に練習してきたの!」
「・・・・・・」
(あかん・・・ こいつら、やっぱり本物やわ・・・・)と、声も出ませんでした。
すると、お父さんとお母さんが、みんなには聞こえないような小さな声で、なにやらぼそぼそと会話をした後、
「圭介君、私らちょっと疲れたから、あとは若い人たちで楽しんでもらって、私とお母さんは先に休ませてもらうわ」
「圭介君、千里、おやすみなさい。みんなも楽しんでくださいね」
と言って、お父さんとお母さんは逃げるようにして自室に去ってしまいました。
「みてみぃ! お前らのせいで、お父さんとお母さんがドン引きしてもうたやないか!」
と、二人を叱ったのですが、声を殺して笑い続けていた紳が、
「圭介さん、『アクメくん』を見てあげましょうよ!」と言うと、
「そうですよ! せっかく二人で一生懸命に練習してきたって言ってるんですから! 千里も見たいやろう?」と、マリも一緒になって、千里を巻き込みました。
千里はとても複雑な表情で、
「うん・・・ 見てみたい」と言いましたので、みんなで居住いを正して観劇することになりました。
「それでは、SM官能ミュージカル、『アクメくん』をご覧ください」と言って、ピロシはロープを手に取り、進は両手を後ろに回して、
「アニキ、千里姉、見ててね♡」と進が言うと、ピロシは進の後ろに回した手にロープを掛け始め、
「ミュージック、スタート♡」という進の合図で幕が開きました。
「エロS~M愛撫♪ エロS~M愛撫♪
さぁ!バコスコバコスコお縄を巻~きつけろ♪
エロS~M愛撫♪ エロS~M愛撫♪
ほら!バコスコバコスコ僕らの~ ア~クメくん♪」
ピロシが歌い終わったとき、目にも留まらぬ見事な早業で亀甲縛りが完成致しました。
「ぎゃははは!」といった、爆笑の渦の中、
「みてぇ~♡ アニキ~、千里姉~、すごいでしょ~♡」と、どうやら進は、恍惚とした表情でエクスタシーを迎えて、文字通り『アクメくん』へと変身してしまいました・・・・
そんな進に刺激を受けたのか、腹を抱えて笑い転げていた紳が、
「じゃあ、僕も負けてるわけにはいきませんから、歌を唄います」と、歌い始めました。
「あなた~と私が~ 夢の国~♪
森の小さな教会で~ 結婚式を挙げました~♪
照れてるあなたに~ 虫た~ちが~♪
く~ちづけせよとはやしたて~♪ く~ちづけせよとはやしたて~♪
く~ちづけせよとはやしたて~♪ く~ちづけせよとはやしたて~♪」
やがて、『テントウムシのサンバ』は、
「く~ちづけせよとはやしたて~♪」
というフレーズが千里と私以外で合唱となってしまい、
「・・・・・」
しかたなく千里を抱き寄せ、みんなの前でキスをしました。
とても楽しい一日でございました。
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