第23話 誓い
おそらく、千里が幼い頃から想い描いていたプロポーズの場面と、随分と違った結果となってしまったことでしょう・・・
きれいな夜景の見える星空の下でもなければ、気の利いた音楽が流れるお洒落なレストランでもなく、千里がどのようなシチュエーションを想い描いていたのかは分かりませんが、間違いなくこのような場面では無かったはずです。
ゆっくりと考える時間を与えず、冷静な判断を下せるほどの、基準となる材料を与えなかったことを申し訳なく思う分、私は千里とその家族を大切にして、千里を必ず幸せにすると、心の中で何度も誓いました。
千里は私の腕の中から、ゆっくりと半身を起し、下着を身につけて立ち上がり、
「シャワー浴びたばっかりやのに、また浴びに行かなあかんね」
と言いました。
私は千里の下着姿を見あげて、(かわいいなぁ)と思いながら、
「うん、そうやな」と言いました。
千里はパジャマを取り上げて着用しはじめましたので、私も半身を起こしてパンツをはいたあと、浴衣を身に纏いました。
「圭介、お風呂にお湯を溜めて、ゆっくり浸かったほうが疲れが取れていいんじゃない?」と、千里が訊ねてきました。
確かに、陰暦の上では初夏ですが、薄着ではまだ肌寒い4月の終わりなので、
「そうやな、お風呂に浸かりたいな」と言いました。
「分かった。じゃあ、お風呂にお湯を溜めてくるね」
「うん。一緒に行こう」
と言って、私たちは一階に下りまして、先ずは冷蔵庫からコーラを出して喉の渇きを潤しました。
千里は一人で掃除に行くと言ったのですが、家事に勤しむ姿が見たかったので、二人でお風呂場に行って湯船を軽く掃除したあと、湯船にお湯を張り始め、段々とお湯が給って行くのを意味も無く二人で眺めておりました。
「千里、一緒に入ろうよ」
「いやや、はずかしい」
私は両手を合わせて、千里に頭を下げながら、
「お願い! なぁ、一緒に入ろう!」と嘆願しました。
「も~う、恥ずかしいから嫌やって!」
と言って、千里は何度も拒否しましたが、嫌よ嫌よも好きのうち、ということで脱衣場に連れて行き、半ば無理やり服を脱がせて一緒にお風呂に入りました。
私は千里に背中を流してもらい、お返しに嫌がる千里の全身を洗っている間に、どうにもこうにも我慢ができなくなってしまい、
「えっ! 圭介、こんなところで嫌やって!」
「ごめん、でも千里が悪いねんで」
「なんで、私が悪いのよ?!」
「千里がエロいからや」
「なにがエロいやねん! ちょっと、もう、やめろ変態!」
といったような感じでふざけ散らしながら何とか2回戦を終えて、また洗いっこしたあと、少し狭かったのですが無理やり二人で湯船に浸かりました。
「もう、信じられへん・・・ マリが圭介は口先だけの変態やって言っててんけど、ほんまの変態やったって教えてあげなあかんわ」
「・・・・・」
「もう、マリにも変なことしたらあかんねんで!」
「変なことって、どういうこと?」
千里は『マリ~!ガクッ・・・』と『メェ~』と言ったあと、
「それを変なことやと思ってない時点で、圭介は本物の変態やわ」と言いました。
「・・・・・」
「マリには彼氏がおるねんから、もう変なことしたらあかんよ」
「えっ! マリって、彼氏がおったん?」と、本当に初耳だったので驚いてしまいました。
「おるよ。プロのサーファーらしいねんけど、私も会った事が無いから、よく知らないねんけど、すごくかっこいいらしいねんて」
「そうやったんや・・・ だからマリは、色が黒かったんやなぁ。でもあいつ、俺にはそんなこと一回も言うたことなかったのに」
「それは、圭介が一回も、マリに彼氏がいるのかって訊ねへんかったからやろう?」
確かに私は、マリに彼氏がいようといまいと、何の興味も無かったので訊ねたことがありませんでした。
「じゃあ、今度マリと一緒に4人で、ご飯でも食べに行こうか」と私が言うと、
「それは、多分無理やと思う」と千里が言いました。
「えっ、なんで無理なん?」
千里はすこし言いにくそうな表情で、
「なんか、人に紹介できないくらい、アホらしいねん・・・」と言いました。
「えっ! そうなん?」
「うん・・・ なんか、敬語とか一切無理やし、アルファベットも最期まで言われへんし、九九も7の段から上が、半分以上間違ってるって言ってた・・・」
(今時珍しい、中々の
「マリが言っててんけど、圭介さんって、私に興味が無いんかなって、言ってたよ・・・ 」
「興味が無いって、どういうこと?」
「それは、さっきも言うたけど、圭介はマリに彼氏がいるのかって、一回も訊いたことないんやろう? だからマリは、圭介が自分のことを、恋愛対象で見てないんかなぁって言ってたよ」
私はあまりにも意外な裏話に、驚いてしまいました。
(恋愛対象じゃなくて、調教対象や)と、千里に説明しようかと思いましたが、確実に怒られるので止めました。
「マリがね、もし、自分に彼氏がいなかったら、圭介のことを好きになってるかもって、言ってた」
「えっ! マリがそんなこと言ってたん?」
「うん・・・ 別にマリじゃなくても、圭介に毎日あんなことされ続けたら、訳が分からんようになって好きになってしまう女の子は多いと思うよ」
「・・・・」
私は複雑な女心について、しばらく考えたあと、
「でも、それやったらやで、変態の俺に変なことされて俺のことを好きになるんやったら、マリのほうがもっと変態っていうことじゃないん?」と訊ねてみました。
千里はすこし呆れ顔で、
「ほんまに圭介って、女の子のことを全然分かってないなぁ・・・ とにかく、もう絶対にマリに変なことしないって約束やで!」
と言って、指切りゲンマンで約束させられてしまいました。
マリという優秀な牧羊犬を手放すことは、誠に遺憾で慙愧の念に堪えない、痛恨の極みでございますが、妻の言うことは絶対なので、これにてマリの調教を諦めることにしました。
しかし、私には進という、無限の可能性を秘めた秘蔵っ子がおりますので、これからは進に全力投球することにします。
「私、今日の晩から仕事やから、お風呂上がったら、大人しく二人で眠るねんで!」
「うん、分かった。でも、これから千里は、ずっと深夜勤務になるの?」
「うん。深夜勤務は時給が高いから、これからは私とパパが交代で入ることになると思う」
(ということは、千里もそうやけど、昼も夜も仕事で俺の体が持つかなぁ?)と思いました。
「それで、私は今日の夜の10時から明日の朝の9時まで勤務やねんけど、明日の朝の9時にマリと進君が来て、それからいろいろと打ち合わせをすることになってるねんで」
「そうなんや」と答えたあと、どうすれば千里が少しでも楽になれるかを考えました。
「うん、でも私、進君とどう接したらいいのか分かれへんわ・・・ 今までゲイの知り合いなんかいなかったから、圭介はどうしたらいいと思う?」
私は千里の問いかけの答えが、自分でも全く分からなかったので、質問自体を無視して、
「あのさぁ、千里はもう、俺と一緒に俺の家に住むことにしよう。俺の家からやったら、送り迎えは俺がするし、もしも無理な時でもホテルは自転車でも行けるから、ここから通うのと比べたら、ずっと楽になるやろう?」と言いました。
「えっ! 圭介のお
「そうやで。だって結婚してくれるんやろう?」
「それは、そうやけど・・・」
と言ったあと、千里はしばらく何事か思案中といった表情をしておりましたが、
「ほんまにいっつも、何でも勝手に急に決めて・・・ でも、圭介がどういう暮らしをしてるのか見ておきたかったから、そうする」
と言って、了承してくれました。
ということで話がまとまり、私が両親に話をして、了解を得ることになり、早速今日の夜から少しずつ荷物を運ぶことにしました。
お風呂を上がったあと、千里は下着や衣類、メイク道具といった、差し当たって必要なものを旅行バッグや段ボール箱に詰め込み、二人で車のトランクに積み込みはじめ、千里は最後の荷物を私が積み込んだのを見届けたあと、
「これで、ここはもう私の帰る場所じゃ無くなったっていうことやんな」と言いました。
「え? どういうこと?」
「これから私は圭介の嫁になって、圭介のお家が私のお家になるから、もうここは私の帰るところじゃなくて、私が帰るとこはパパでもママでもなくて、世の中に圭介しかいないっていうことやねんで!」
「うん、そうやな」
「私はどんなことがあっても圭介から離れへんって覚悟を決めたから、圭介も私を離せへんって誓って!」
私は千里の目をまっすぐ見つめながら、
「俺はこれから何があっても、千里を離せへんって誓うし、何があっても絶対に千里を幸せにするって誓うよ!」と言いました。
「よし! じゃあ、これから私は圭介のために幸せになってあげるから、先ずは本当にちょっと眠るよ!」
「うん。寝よう」
ということで千里の部屋に戻ったあと、さすがに私も千里も疲れきっていたので、布団に入って少しだけいちゃついたあと、いつの間にか千里は眠ってしまい、私も千里の寝顔を見ながら、いつの間にか眠ってしまいました。
「zzzzz・・・・・・」
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