第6話 歓迎会
「とりあえず、いま千里の話を聞いて僕も不思議に思うけど、いまのところは僕自身がホテルも見てないし、何も調査してないから、はっきりしたことは何も言われへんから、どっちにしても千里のお父さんに直接会ってみて、いろいろと話してみるわ」
「はい、ありがとうございます。それで、私の方なんですけど、ホテルが今説明したとおりの状況なので、新たに人を雇う余裕もありませんし、人件費を削減するっていう意味もあって、私が仕事を辞めて大阪に戻ってきて、ホテルの仕事を手伝うことになったんです」
(やった~♪)と、思わず叫びそうになりましたが、話の内容が内容なだけに、人間性を疑われる可能性がありますので、
「じゃあ、これからはこっちにずっと居るん?」と訊ねました。
「はい、実はもう東京の家は引き払ってきて、実家の箕面に帰るんですけど、今日はマリの家に泊めてもらうことになってます」
「千里は箕面の出身なん?」
「はい。生まれも育ちも箕面です」
名所といえば『箕面の滝』が有名で、特に紅葉の季節は絶景で、紅葉狩りに多くの人が訪れます。
ちなみに名物は『もみじの天ぷら』が絶品です。以上。ではなく、どうでもいい続きの話がありまして、私は小学1年生のときに学校の遠足で箕面の滝に訪れたことがありまして、昼食のときに滝のほとりでお弁当を広げたところ、周辺にいた日本猿の群れに取り囲まれまして、彼らの偵察、威嚇、挑発、陽動、遊撃、強奪という一糸乱れぬ見事な連係プレイに遭いまして、
「ということで、僕は弁当をサルに奪われてしまったことがあるんですよ」と、千里に幼き頃のほろ苦い思い出を語りました。
千里はクスクスと笑った後、
「そうですね、箕面のおさるさんは頭が良いですからね」と、弁当を奪われた幼き日の私に同情するのではなく、あろうことか同郷のよしみで、哺乳綱サル目オナガザル科マカク属に分類されるサルの肩を持ちました。
すると、先ほどから無言で私たちの話を聞いていたマリが、
「さっきからずっと気になってたんですけど」と言ったあと、
「圭介さんは自分の事を話すとき、私には俺って言うのに、なんで千里には僕って言うんですか?」と言いました。
自分では意識していなかったのですが、言われてみると確かに、そのとおりだと思いました。
「それはたぶん、箕面と生野の違いやと思うねん。生野の人に僕って言うたら、キショッ(気色わりぃ)って言われるやろうし、箕面の人に俺って言うたら、ガラ悪って思われるやろう? だから俺は、相手に合わせてというか、TPOに応じて使い分けてるねん」
「でも、千里が箕面の出身って、さっき分かったばっかりやのに、圭介さんは初めから千里には、僕って言ってたじゃないですか」
私は千里の頭のてっぺんから足のつま先まで、曇り無きいやらしい
「そんなん、千里はどこからどうみても箕面っていう感じやんか」と言いました。
「じゃあ、私は見るからに生野っていう感じなんですか?」
「いやっ、マリは生野っていうよりも、どっちかっていうたら、西成の~お洒落な、あっ! 痛っ!」
驚いたことに、マリはわざわざ身を乗り出し、右手を伸ばしてきて、私の左腕をつねりながら、
「ワタシハ、ニシナリノ、オシャレナ、ナニ?」と、ゆっくりとした口調で、しかも一言一句を幼い子供に言い聞かせるかのような言い方で、はっきりと質問してきました。
(*注意④私は決して、西成を馬鹿にしているわけではありません。馬鹿にしているのはマリの方です)
「いや、ごめん・・・ マリはやっぱり、生野のミス
というわけで私は真顔に戻り、
「それで、僕は千里のお父さんに、いつ会いに行けばいい?」と訊ねると、もうこの頃になるとすっかり、千里は私とマリとのせめぎあいなど、初めからなかったものとして捉えているようで、
「私、来週の月曜日からホテルに出勤することになってるんで、父には私から事前に話しておきますから、一応来週の月曜日でかまいませんか?」と、ビジネスライクに答えてくれました。
「了解。じゃあ、とりあえず来週の月曜日に、千里のお父さんに会いに行くわ」
「はい、時間はまたあとで連絡しますので、よろしくお願いします」
「よし、じゃあ、仕事の話は終わったから、今日の晩御飯をどこに食べに行くかを相談しようか」と、私は千里に言ったのですが、
「あじ平!」
と、間髪入れずにマリが即答しました。
「おっ! あじ平か・・・」
先ほど、第1章の生野区が云々の
「千里は、てっちり好き?」
「はい!、大好きです♡」
「じゃあ、決まり! マリ、すぐに予約して」
ということで、千里の歓迎会場が決定しました。
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