第4話 大阪インペリアルホテル

 正常か変態か、どちらかと言えば、私は変態な方だと思います。3年近く通い続けている風俗店のお嬢さんに、2年以上も変態プレイを・・・ 

(この出だしは・・・ 『みにくい白鳥の子』を参照)


 さすがに千里も、私が本物の変態だと思い込んでしまったのかもしれません・・・

(*注意③ 私は変態ではございません。おそらくですが・・・)

 正常者の私は、その場の空気に堪えきれず、勢いよく立ち上がって給湯室に向かい、換気扇を回したついでに窓を開け放ち、空気を入れ替えて再び千里の前に座り、

「とりあえず、なんにしても場が暖まったことやし、そろそろ本題に入ろうか」と言いましたが、

「よう、そんだけ自爆っていうか、自滅したあとで、シレッと切り変えることができますねぇ! ほんまに尊敬しますわ!」と、マリが呆れ顔で誉めてくれました。

「マリ、それはな、オウンゴールもゴールのうちっていうことや」と、自分で言っておきながら、自分自身でも意味がよくわからない迷言を口走った後、視線を千里に向けて、

「さぁ、ほんまに本題に入ろう。それで、千里が僕に会いに来た理由から聞かせてもらおうか」と言いました。

 すると千里は、次のような驚くべき発言をしました。

「実は・・・ 圭介さんにお願いしたい事は、私の父に会ってもらいたいんですよ」

「!・・・」

 さらに千里は、次のような驚嘆すべき発言をいたしました。

「圭介さんに、父に会ってもらって、どうしても説得というか・・・ 話してもらいたいことがあるんですよ」

「!!!・・・・」

 この展開は、もしかして・・・

 千里はマリから私の話を聞いて、以前から私に好意を寄せていて、私に会うためにわざわざ東京から訪ねてきて、こうして実際に会ってみて、結婚の決意を固めたのではないでしょうか?・・・

 いや、私の実家の隣のじっちゃんの名にかけて、間違いなく千里は、私との結婚を決意したに違いありません。

「僕はこう見えても、人を説得するのが得意やし、結婚ってタイミングが大事やし、何よりも勢いが大切やから、なんやったら早速、明日にでもお父様に挨拶に行きましょうか?」と、千里の意を汲んだ私が、結婚の許しを得る覚悟を決意したことを表明すると、

「なんだか・・・ いつのまにか私と圭介さんが結婚するみたいな話になってますけど~?」と、千里は初々しく照れを隠しました。

 すると、私たち夫婦の問題に、

「大丈夫! 私が命にかけても阻止するから!」と、マリが割って入ろうとしました。

 ここはひとつ、トップブリーダーとして、誰がご主人様であるのかをはっきりと認識させるために、

「マリ、『夫婦喧嘩は犬も食わない』って、ことわざ知ってるか?」

 と問いかけました。

「聞いたことはありますけど、どういう意味なんですか?」

 私は自分の雑学を、マリにひけらかすつもりはなかったので、

「つまり、お邪魔犬は黙っとけ!っていう意味や」と、本来の意味を説明するのが面倒くさかったので、分かりやすく噛み砕いて引っ込んでろ!と言いました。

「もうっ!私は犬じゃなくて、オオカミやって言ってるでしょう!千里もなんか言ったってや!」と、マリは我が新妻の千里に無茶振りしました。

 すると、私とマリの激しい掛け合いに慣れてきたのか、それともウザくなってしまったのか、千里はマリのフリを完全に無視して、

「ところで、圭介さんの仕事は、経営コンサルタントなんですよね?」と、話題をころっと変えてきました。

「そうやで」

「えっ!・・・ うちって、経営コンサルタントの会社やったんですか?」

 マリは素っ頓狂な顔で、私に問いかけてきました。

「えっ!マリ、知らんかったんか?」

「知らんかったんかって・・・ 圭介さん、一度もそんな話、したことないじゃないですか!」

「でも、なんで3ヶ月も勤めていて、マリは自分の会社のことが分からないの?」と、千里が問いかけると、

「だって、私ここに来てから、仕事らしい仕事なんかしてないし、圭介さんから言われたことは、本を読みなさいっていうことだけやったもん」とマリが答えました。

 すると、千里は私に向かって、

「そうなんですか?」と訊ねてきましたので、

「確かにマリの言う通りなんやけど、内情を言うたら、会社は立ち上げたばっかりで、まだ準備段階やから、これから本格的に動き出すっていうことやねん」と答えました。

「っていうか・・・ なんで千里がうちの会社の事知ってんのよ?」

「だって、マリが会社の名前がちょっと変わってて、悪が損をするっていうのに因んでつけたってことを言ってたから、私は興味を持っちゃって会社のホームページを見てんけど、そのホームページにマリの写真と一緒に、経営コンサルタント業って載ってたし、事業内容はマリがひとつづつ、笑顔で説明してるみたいになってたよ」

 マリは今にも噛み付きそうな勢いで、

「おっさん、私の写真を勝手に載せたな?」と牙を剥きました。

「だって・・・ マリがあんまりにも美しかったから、つい勝手に載っけてしまって・・・ ごめんなさい・・・」と、私が素直に謝ると、マリは一瞬で笑顔を取り戻し、

「まぁ、そういう事情やったら仕方ないですねっ!」と、機嫌を直してくれました。

「とにかく圭介さん、結婚の話は置いておいて、一度父と会ってもらえますか?」

「うん、会うのはいいねんけど・・・ とりあえず、僕がお父さんと会う理由って、どんなことなん?」

 千里は少し伏目がちになり、

「実は・・・ 父の事業が傾きかけていて、それで圭介さんに相談したいと思って・・・」と言いました。

(そっちか~い)と、結婚話と早合点して、軽く勘違いをしていた自分自身を褒めてあげたいという衝動を抑えつつ、ここからは本気のビジネスモードに切り替えて、

「それで、お父さんはどんな仕事をしてるの?」と、真顔で問いかけました。

 すると千里は、とても真剣な表情で、


「父は、大阪インペリアルホテルを経営しているんです」


 と、これまた本当に驚くべき発言をしました。

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