第3話 変態観測

「なんで最後までちゃんとしないんですか?」

「・・・・・」

「ハウスって、ほんまに帰ってもいいんですか?」

 私は首を、一度だけ軽く横に振りました。

「帰るんやったら、千里も一緒に連れて帰りますよ?」 

 私は首を、何度も激しく横に振りました。

「ほんまは、千里の前やから恥ずかしいんでしょう?」

 私は首を、縦にゆっくりと一度だけ振りました。

「ド変態のくせに、何を恥ずかしがってるんですか? 千里の前で、いつもみたいにカッコ良く決めちゃってくださいよ!」

「ちょっとマリ!」と、千里が心配そうな表情で、私とマリの間に割って入ろうとしてくれました。

 これ以上、かけがえのない大切な千里に心配をかけるわけにはいきませんので、私は意を決して、

「そんだけ言うんやったら、いまからほんまにするけど、ひとつだけ条件がある」と言いました。

「どうせ、千里に外に出てもらって、その間にするつもりなんでしょう?」

「ちがうわぃ!」

「じゃあ、どんな条件なんですか?」

 マリは私が本当にできないと踏んでいるのか、人を小馬鹿にしたような(下目遣いで口を半開き)表情を見せました。

 事ここに至っては、『毒を食らわば皿まで』ということで、

「俺が『マリ~!』って言うたら、マリは同時に『ワォ~!』って、負け犬の遠吠えをしてくれや。そしたら、千里の前で堂々としたるわ」と、交換条件を提示したのですが・・・

「ま~け~い~ぬ~?・・・・・ 誰に向かって負け犬って言うてんねん! 私が『ワゥ』って言うてるときは、オオカミになったつもりで言ってんねん!」

「・・・・・・」

(ヤギといい、オオカミといい、勝手にキャラ変更しやがって!)と思いましたが、言葉にしませんでした。

「男のくせに、ごちゃごちゃ言うてんと早よしぃや!」

 こうまで言われてしまうと、もう後には引けません。

 私は目を瞑り、清水の舞台から飛び降りたような気持ちで、


「ちさと~!」


 と叫んだあと、『ガクッ』と、思い切りこうべを垂れてイってやりました。


 しかし・・・


「☠☠☠・・・」


 その後、事務所内は殺伐とした冷たい空気に支配されてしまい、私は『後悔先に立たず』と『覆水盆に返らず』という言葉の意味をしみじみと噛み締めておりましたが、

「あほや・・・ 千里と初対面やのに・・・・ イってしまいよった・・・」

 というマリの言葉に、なんだかよくわかりませんが、なんとなく少しだけ救われたような気がした次の瞬間、


「圭介さんって・・・ ほんとうに変態なんですか?」


 という千里の言葉で、私は再びフリーズしてしまいました。

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